ちょっとだけ月末に東京に戻っていたが、8月29日の町田市立国際版画美術館での講演仕事を終えて、東京の猛暑に追われるごとく、また信州の家に戻ってきた。
さすがに、もう八月末九月初ともなると、信州の山里は秋気が明らかに感じられるようになった。稲穂はもう黄色くなりかかり、お米の香りが野に満ちている。
八月中は、ともかく家の中に飛び込んでくる虫が非常に多く、網戸などあって無きがごとしとでもいうか、夜、仕事をしているとたちまち小さな虫がそこらじゅうに散らばって落ちているという状態になり、しょうがないので、蛍光灯の下に水盤を置いて水と中性洗剤を入れて置いておくと、おもしろいようにそのなかに虫が落ちてとれる。自家製室内誘蛾灯というべき工夫だが、さるなかにも、ある夜は、とつぜんに大きな黒い虫がばたばたと室内を飛び回るのを発見、いったいどこから入るのか見当もつかぬが、よくみるとどうもミンミンゼミらしい蝉であった。蝉は、夜だから鳴きもせずおとなしくしていたが、翌朝は、床に落ちて死んでいた。
さらにまた別の日は、赤とんぼが闖入してきて、家のなかをあちこち飛び回った。これも放っておいたら、翌朝、かわいそうに自家製誘蛾灯の水盤のなかで絶命していた。
季節は夏から秋へ、確実に移り変わっていく。