2020年6月24日水曜日

真竹の子



 きのう、中央高速の談合坂サービスエリアに立ち寄ったところ、季節柄の真竹の筍を売っていた。おお、これはめずらしい。真竹は、あの八百屋に出る孟宗竹の筍が終わって、初夏の頃に出てくるもので(東京ではスーパーなどに出てくることはまずないが)、しかも、孟宗竹が地面に顔を出すか出さぬかくらいの若い時分に採るのとちがって、もうかなり「竹」になりかかりまで伸びたところを採る。
 それゆえ、一見するとまるで竿竹の子分のような感じで、果してこんな竹ん棒みたいなものが食べられるんだろうかと怪しむくらいなのだが、いやいや、これがまったく旨い。じっさいには、真竹の子は、かなり竹になっていても、ちっとも堅いということはなく、庖丁でもサクサクと美しく切れる。
 孟宗竹の筍とちがって、肉厚はずっと薄く、一番厚いところでもせいぜい一センチくらいのものである。で、これはあまりアクがないので、そのまま茹でても美味しいのだが、すこし薹が立っている感じであったから、万一にもエグみなどあってはいけないと思い、やはり糠をいれて一時間ほど茹でた。すると、ほんとうに良い香りがして、ふんわりと出来上がった。
 そこで、これを庖丁で切るのでなく、指で縦に裂いて、ちょうどシナチクのように作り、まずは筍を油で炒め、そこに、酒、味醂、醤油、酢、中華味の素、胡椒、輪切りの鷹の爪、とこう調味料を合わせて入れ、フライパンですっかり水気が無くなるまで煎り付ける。これで、とてもおいしい真竹の子の中華メンマ風ができた。いや、じつに結構なる味であったが、これは左党の人なら、ちょいとビールが欲しいね、とでも言いそうな風情に思われた。

2020年6月12日金曜日

昇降デスク


 このところ、どうもまた腰の調子が悪く、しばしばぎっくり腰のようなことになるので、なかなか長時間座って仕事をするのが辛い。
 そこで、最近の研究成果として、人間座っている時間が長いと体に悪いということが分ってきたので、オフィスなどでも立って仕事をするところが増えてきた。医者として働いている息子にも尋ねてみたところ、やはり彼もデスクが昇降できるようになっていて、立ったり座ったり変化させながら仕事をしているということであった。
 それならば、ひとつわが書斎にも昇降式のデスクを導入しようと、今般新たに、デスクの上に置く昇降式のデスクを買った。
 それが写真のこれである。
 こうすると、立って読書もでき、コンピュータ仕事も楽々とできる。そうして立っているのに疲れたら、こんどはデスクも下げて座って仕事をする、ということにした。

 こんなデスクはつい最近出てきたものであるが、たしかに、立って仕事をすると能率があがり、眠気も防ぐことができる。これは良いものを手に入れた、とほくほくして仕事に励みつつあるところである。

2020年6月6日土曜日

アポリネエル詩抄



 もうできるだけ本は買うまい、と内心には決めているのだが、いざちょっとsexyな本に遭遇すると、ついついその決心も揺らいで、また買ってしまうのだ。これは一種の病です。いわば「愛書病」。
 もともと、私は戦前に長谷川巳之吉という変わり者の版元が出した書物を、ちょっと特別な思いでみている。その出版社を第一書房といった。この第一書房こそは、近代日本に於ける、もっとも美しい本を出した、出そうとした、特別の版元として記憶されてよい。そして中身の詩についても、一家言を有する人であったが、そのお目がねに叶って美しい詩集を世に出してもらった詩人は何人かいる。その代表は田中冬二であるが、堀口大学もまた、長谷川のお気に入りの人であった。
 昭和二年十二月十日発行の初版特装本限定1500部のうちの一冊を、きょう我が書室に迎え入れることができた。ごく上質の料紙に活版の印字も鮮やかな、そして表紙は四色の墨流しに茶の革背、そこへ天金を奢って、背文字も金の箔押しだ。こういう本を作ってもらった訳者の堀口大学はさぞ嬉しく思ったであろう。なにしろ、刊行されてから百年近く経ったこんにちただいまでも、ただこの本を手に入れて嬉しがっている人間がいるのだから。ましてや、大学は刷り上がってきた本書を手にして、一日見飽きなかったのではあるまいか。