2020年5月16日土曜日

時代に先駆けて


 このごろは、コロナ防疫の観点から、ステイ・ホームの徹底が著しく、そのゆえに今までは外食にも相当に助けられていたところが、いまはもっぱら家で料理して内食一点張りという人も増えたことと思われる。
 そのため、毎日三度三度の食事を作るのに、ほとほと草臥れたという愚痴をこぼす人も少なくあるまい。
 ところで、私は以前から、いつも書いている如く、毎日の食事は、みな私が調理担当で、妻は作らないが、しかし、もうずっと長い年月こうしてやってきて、食事の仕度が面倒だとも、また何を作ったらいいか困惑するとも、一向に思わない。
 それどころか、毎日冷蔵庫にある食材を、どう組み合わせて、何を作るか。毎日変化をつけて、栄養にも留意して、翌日の便通にまで気を配って、和洋中あれこれと作っているが、楽しいとしか思いようがない。
 で、その家で食事を作って食べるという愉悦について、じつはもう六年前、2014年に『家めしの王道』という本を、角川SSC新書というシリーズから刊行しているのである。
 これも、今ごろ、この誰もが家めしを原則として、頭を悩ましているときに出せばタイムリーだったが、『風邪はひかぬにこしたことはない』(ちくま文庫)と同様、出すのが早過ぎた。この小著には、家で料理をすることの原則、道具、方法、具体的レセピに至るまで、たっぷりと書いてあるので、ぜひご一読いただきたいものだ。
 もっともそのレセピの多くは、この『写真日記』にカラー写真入りで掲載してあるので、これも御参照いただければ幸いである。

2020年5月3日日曜日

加賀太きゅうり



 金沢の北山吉明ドクターが、能登の七尾の高島園という若い篤農家が、手塩にかけて作っている、加賀名産の赤土野菜というのを、箱にいっぱい送って下さった。コロナ合戦の最中の私達には何よりの陣中見舞いだ。
 いろんな、見たことも聞いたこともないような珍しい地場野菜があれこれあったなかに、私の好きな加賀太胡瓜も入っていた。これを加賀の人がどう料理するのかは、良くも知らないのだが、なんでも皮を剥いて薄切りにしたりして食べるらしい。
 しかし、私はこれが手に入ると、まっさきにイギリス式のキューカンバー・サンドウィッチを作ることにしている。なにしろ、イギリスの胡瓜というのは、みなこの加賀太くらいに太くて、もっと長い、巨大な胡瓜だが、加賀太よりも若干皮が薄くて甘みがある。しかし、日本の普通の胡瓜で作ったのでは、キューカンバーサンドの気分が出ないのだ。それゆえ今回も、さっそく作った。
 キューカンバーサンドウィッチは、ごく単純なもので、要するに、マスタード・バターを薄く塗った食パンに、加賀太を五ミリくらいの暑さの輪切りにしたものを乗せ、それにごく少量の塩をふってから、黒胡椒を少したっぷり目に挽きかける。あとはそれをサンドウィッチにして切って食べるばかりである。
 今回は、同時にスクランブル・エッグのサンドも添えた。
 ああ、このキューカンバーサンドウィッチというものは、あまりあれこれと味を付けてはいけない。ただ塩コショウだけ、そのストイックな佇まいがイギリスだ。
 さっそく、熱い熱いミルクティといっしょに、朝食に食べた。うまいなあ。