一週間ほど前から、例によって信濃大町の山荘に隠棲中である。今回は、なんとしても『謹訳平家物語』を最後まで書いてしまわなくてはならぬ、と悲壮なる覚悟で、酷暑の東京を逃げ出し、山のような本を持参して、こちらに篭居しているのである。
さるなかにも、昨日からは、アメリカ在住の息子の娘たち・・・つまり孫娘どもが二人だけでこの山荘に「お泊まり」に来ている。東京は異常な酷暑なので、ちょうどいいときにこの涼しい山峡の里に来たものだと思う。
しかしながら、ただでさえ小さな家に、二人の「賓客」を迎えるとなると、なかなかたいへんで、庵主の私だけが超然として執筆に励むというわけにもいかず、実質的には、一日じゅうこの孫たちの世話や家事に明け暮れる始末である。
さるなかにも、きょうは白馬村へ遠足にでかけた。行ったのは、白馬ガラス工房というところで、いわゆる蜻蛉玉と呼ばれるガラス玉を使って、手作りのアクセサリーを拵えるという、まあ女の子の好きそうな趣向を求めて出かけたのである。
行ってみると、白馬村は、どうしてどうして堂々たる高原リゾートになっていて、長野県では軽井沢と並んで見事なランドスケープデザインが施されている。ホテルやペンションもよいデザインのものが櫛比して、まるでヨーロッパに迷い込んだような印象であった。近くに避暑に来ていて、白馬がここまで美しくでき上がっていることを知らずにいたのはまことに不覚であった。
写真は、そのなかでもなかなか出色のホテル、「ラ・ネージュ本館」で、八方の麓、和田野の森というところにある。じっさい、堂々たるイギリス風の建築で、いわばヴィクトリア時代からエドワード時代に流行した擬古的デザインである。残念だったのは、ここまでイギリス風に作っていながら、ちょうど午後三時であったにもかかわらず、「アフタヌーン・ティ」のようなサービスを全くしていないという、この一点であった。これだけのロケーションがあるのだから、ぜひティのサービスをするとよい、と強く経営者に勧めたいと思ったところである。
この森あたりは標高が千メートルくらいあるのであろう。ごく冷涼で、じつに気持ちのよい気温であった。また、来るべし。