2016年9月5日月曜日

信州の秋


ながらく御無沙汰をいたしました。
 八月は、信州の山荘翠風居に独りこもって、ひたすら『謹訳平家物語』の執筆に専念しておりましたが、幸いに、八月の末に灌頂の巻まですべてを書き上げ、無事東京に戻ってまいりました。
 まだ青々とした稲の苗が水漫々たる水田に揺れていた六月ころから信州に行き、八月末に戻ってきた頃には、写真でもおわかりのように、水田はすでに稲穂が黄金色に実って、豊かに頭を垂れておりました。
 ふと道の反対側、梓川の岸辺を眺めてみると、もう一面のススキ原で、風はまだいくらか暑気を含んではおりましたが、東京の空気とは格別、やはり明らかな爽秋の気配が横溢しておりました。
 それから一週間あまり経って、今ごろはおそらく、朝晩は肌寒い気温になっているだろうと想像しています。九月になると、里のそこここに、熊の出没が著しく、秋は注意しなくてはならない季節でもありますが、しかし、信州の秋の美しさ快さは、子供の頃からいつも信州で夏を過ごしてきた私どもには、まさに故郷の秋という感慨があります。
 『謹訳平家物語』の最終第四巻は、ただいま校閲作業中にて、十一月に予定どおり刊行される手はずになっておりますので、どうか読書の秋に、一冊お手元にお備えくださいますよう、心からお願い申し上げます。