2013年6月10日月曜日

祝賀会

きょうは、かつて慶應義塾女子高校で教えた教え子たちが集まって、わが『謹訳源氏物語』の全巻完成を祝う会を開いてくれた。
みな朗らかで、上品で、この会はいつも気持ちがよい。みな、いわゆる「おばさん臭い」ということがないのだ。
しかし、この度私が作詩した慶應義塾横浜初等部の校歌の楽譜を持ってきた教え子があって、ピアノの巧い教え子もあって、マンドリンの名人の子もあって、じゃあ、ひとつピアノとマンドリンを従えて、僕が歌ってみましょうということになった。
で、私は気持ちよくフルコーラスを独唱してきたのである。単なる宴会用の個室なのに、ちゃんと良いピアノが置いてあるとは、感心なる店である。
その店は、隅田川のほとり、『むぎとろ』本店という料理屋で、自然薯が中心の薬膳料理を食べさせてくれたのもなかなかよい趣味であった。

2013年6月6日木曜日

あんこまパン


六月三日、東京文化会館小ホールでの徳川眞弓さんのリサイタルへの客演を、無事打ち上げてきた。
写真上は、『あんこまパン』を独唱しているところであるが、身に纏っているのは、オックスフォード大学のスコラーズ・ガウンである。私は、『あんこまパン』を舞台で歌うときは、いつもこのスタイルに決めているのである。これを着ると、いっしゅ扮装をして役に成り切るという感じがあり、それだけで緊張を和らげることができるのだ。
写真下は、『象のババール』のナレーションをしているところだが、こちらは一転して、紺地にヤシの木とフラダンスの小紋柄のアロハシャツと、いっそ植民地風の白いズボンといういでたちで演じ、がらりと雰囲気を転換した。
歌そのものは、本人としては不満の残る演奏ではあったが、それもそういうものだと受け入れて、ますます不満のなくなるように精進努力せよという、天の神様のお諭しであろうとかんがえておこう。人間、常に精進、日々に努力、それしか前進していく方便はない。学問に王道がないように、芸術にも王道はないのである。しかし幸いに、聞いて下さった方々の評判も悪くはなかったので、まことにありがたいことと思っている。

2013年6月2日日曜日

『象のババール』と『あんこまパン』

いよいよ、である。
なにが・・・って、つまりその、我が東京文化会館小ホールデビューが、である。ははは、大げさなとお笑いになるなかれ。これで、同ホールは声楽家の聖地と称せられるところで、憧れの場所である。そこで歌った人はみな、一様に音響の素晴らしさ、歌いやすさを称賛するのだから、ぜひ一度は歌ってみたいものだと思っていた。
さるところ、御案内のとおり、明日六月三日午後七時開演(六時半開場)にて、徳川眞弓さんのピアノリサイタルが開催される。
このコンサートの目玉曲目が、フランシス・プーランクの『象のババール』である。さるご縁があって、この曲のナレーションを依頼されたので、それならと、まったく新しい新訳を自ら作ってこれを引き受ける事にした。従来の訳よりはずっと辛口の「大人の新訳」というところであろうか。
で、その朗読出演するなら、ぜひ一曲プーランクの歌曲でも歌ってはどうかというお勧めをいただいたのだが、いかんせん私はプーランクの歌曲は未知の世界で、多忙の身として、俄に仕込むこともできかねる。そこで私自身の作詞、伊藤康英君の作曲にかかる大歌曲『あんこまパン』(全三楽章)をば、全力歌唱することにしたのである。
さて、体調をせいぜい整えて、栄養をつけて、できるだけよく眠って、そうして明日の本番には、悔いのない演奏ができるように、全力を尽す所存ゆえ、どうかみなさま、ふるって御来聴賜りたく、伏してお願い申し上げる次第である。

2013年6月1日土曜日

いきいき講演会最終回

日にちが前後してしまったけれど、昨日30日の午後、雑誌いきいき主催の読者講演会に行ってきた。これは源氏物語についての連続講演会で、きのうがその最終回となった。
そこで、今回は『源氏物語、濡れ場の研究』と題して、源氏物語に描かれるいくつもの閨のシーンを抽出し、それをどう読むべきかということを話した。
恋の物語だから、濡れ場もたくさん出てくるのだが、さすがに露骨には書いていない。しかし、だからといってエロスに欠けるということではない。源氏物語は分かりきった事は書かないので、閨の場面も、露骨に行為を描くということはない。ただ、読者たちには、どこでどう「実事」が持たれたかということは、いわば自明のこととして了解されたのであろう。そこを、わざわざ文章を精読するかたちで、どう読むのがいいのか、という話をした。
そこで、葵、若菜下、夕霧、浮舟などの巻々からいちばん問題になるところを執り出して、各種の濡れ場を子細に読んでみたというわけである。なにごとも、露骨に書くのが現代風だけれど、この古典的な濡れ場は露骨に書かない分、想像力をかき立てられるので、なまじ露骨に書くより、よほどエロティックな筆致となる。そんなことも源氏の面白さの重要な要素である。
写真は、いつも聞きにきてくださる桐原春子さんが、講演前に撮って下さったもので、手にしているのは、桐原さんご自作のハーブのブーケである。くわしくは桐原さんのブログに書いて下さっているのでごらんいただければ幸い。
http://d.hatena.ne.jp/mitioyoneko/
をごらんください。

2013年5月31日金曜日

講演会とサイン会のおしらせ

既報のごとく、『謹訳源氏物語』全十巻の完結を記念して、丸善本店で講演会とそれに続くサイン会を開催することになったので、この欄を借りてお知らせします。講演は、源氏をどう読んだらその面白さが感得できるか、というようなことを中心にお話しするつもりですが、まだ詳しいことは決めていません。
日時などは次のとおりです。

 

「『謹訳 源氏物語』(祥伝社)全十巻完結記念 林望先生 講演&サイン会」

丸善 丸の内本店
開催日時:2013年06月21日(金)19:00 ~
フェア・イベント一覧開催店舗ページへ

丸善・丸の内本店 3F日経セミナールーム

定員100名様
要整理券(電話予約可)

参加方法
○丸善・丸の内本店和書売場各階カウンターにて、5/30(木)以降に対象書籍のいずれかをご購入の先着100名様に整理券を配布いたします。
○発売前の商品はご予約にて承り、書籍ご購入時に整理券をお渡しいたします。
○整理券がなくなり次第、配布終了といたします。

※イベントにご参加の方に、“朗読「謹訳 源氏物語」サンプルCD”を差し上げます。


対象書籍
『謹訳 源氏物語』第一巻~第十巻(林望著/祥伝社刊)

ご予約およびお問い合わせ
丸善・丸の内本店 和書グループ 
03-5288-8881(営業時間 9:00~21:00)

2013年5月29日水曜日

いよいよ発売

さて、お待たせしております、『謹訳源氏物語』第十巻が、まもなく刊行になります。すでに再校まで済ませて、現在、印刷・製本の過程に入っており、店頭に並ぶのは、おそらく六月の七日前後になると思います。
2010年の三月に第一巻をリリースして以来、三年あまり、ついに第十巻が出て、これで長く苦しかった、そして楽しくもあった仕事が、いちおうの結末に至ると思うと、なんともいえぬ思いがします。
この三年間、おかげさまで、『謹訳源氏』の知名度も段々に浸透し、これから全巻完結後に購入を考えている図書館なども少なからぬことと思いますので、次第に皆さまのお目に触れる機会も多くなると思います。
このデザインは、私が自分で担当致しましたが、地色は漆塗りの深い朱色をイメージし、また天部に少しだけ各色を配したのは、袖口からこぼれる重ねの色という風情、そして全部の巻が揃うと十二単のような感じ、とそんなことを思ってこうしたデザインにしました。第一巻は若草色、第十巻は藤紫、とそのように初めから決めてありましたが、その余の巻々は、各種の色を試みながらデザイナーと協力しつつ決めていきました。帯と表紙下に「源氏香」の形をあしらって、なおタイトルの白文字は二度の重ね刷りという凝った印刷になっています。装訂そのものはコデックス装といい、往古日本に行われた綴葉装を学び、カバーを外すとあたかも和装本のように見えるようにしました。そうして背表紙のない分力学的に若干の弱みがありますので、それはカバーの料紙を非常に重い厚い紙を使用することで補強しています。しかし、パッと開いて戻らないというこの装訂は、特に書見台に置いて読むというときに絶大の威力を発揮します。
どうか皆さま、末長くご愛読のほど、心よりお願い申し上げます。

2013年5月28日火曜日

ターナーの画業

きのうは、イギリス大使館の大使公邸で小さな講演をしてきた。
この秋に、東京都美術館など各地を巡回する大ターナー回顧展が開催されるについて、主催者の朝日新聞社が、後援のイギリス大使館を会場として、大使御臨席のもと、記者発表のプレゼンテーションを開いた。
私は、どういうわけか、その基調講演のようなものを頼まれて、三十分ほどの短い講演をしてきたのである。
私はターナーとコンスタブルとが全くの同時代人であるところから説き起こして、しかし、その生涯や画業は正反対であったと言ってもよいということを論じ、ターナーの画業がいかに単なる写実から飛躍して、虚構や想像や創造に満ちた営為であったかを論じた。
だからこそ、ターナーは当時の画壇やパトロンたちに人気を博し、生涯に14万ポンドとも言われる巨富を蓄積できたのであったが、これと対照的に愚直なまでに田園風景の写実をしつづけたコンスタブルは、まったく人気なく、ついに妻の持参金まで食いつぶして赤貧失望のうちに世を去ったのだ。
そういうことを、彼の代表作を何枚か映示しつつ、子細にその絵を点検などしつつ話しをすすめたのであった。
写真は、その英国大使公邸の会場。右手に背中を向けている白髪白皙の紳士が現駐日大使ヒッチンズ氏である。ヒッチンズ大使も見事な日本語で、面白いスピーチをされた。彼はほんとうに温容、気品と教養に満ちた素敵な紳士である。