2011年1月6日木曜日

身分証明書

 これは、私の父、雄二郎がフランスの政府留学生としてパリに滞在中に使用していた身分証明書である。1959年の発行だから、当時父は43歳であった。先日古い資料を整理していたところ、この証明書を発見、ただちに写真を撮っておいた。この写真でみても、我が父親ながら、じつにハンサムで、ちょっと役人にしておくのはもったいないくらいだったと思うほどだが、いかんせん背が低いのが欠点であった。これに対して、私の母は、当時としては大変に大柄な人で、両親はいわゆる「蚤の夫婦」であったけれど、その母親の長身遺伝子は、父の短躯遺伝子によって簡単に凌駕されてしまったとみえて、私ども子供たちは誰一人背が高くならなかった。まことに遺憾なる事実である。しかし、父はこの時フランス政府の経済計画を学んで帰り、これが後の高度成長政策を背後でささえる力となったのである。1959年といえば、まだまだ日本は貧しい時代であったから、父のフランス生活はまことに貧寒なものであったという。その後、父は経済企画庁の経済研究所長から東京工大の教授に転じ、そのあとトヨタ財団を皮切りにフィランソロピーの世界に進んだ。後にフランス政府から、レジオンドヌール・シュヴァリエ勲章を受け、日本の知仏派の代表的知識人の一人となった。今その父は94歳で、日々元気に近所を散歩して歩いている。