2020年6月6日土曜日

アポリネエル詩抄



 もうできるだけ本は買うまい、と内心には決めているのだが、いざちょっとsexyな本に遭遇すると、ついついその決心も揺らいで、また買ってしまうのだ。これは一種の病です。いわば「愛書病」。
 もともと、私は戦前に長谷川巳之吉という変わり者の版元が出した書物を、ちょっと特別な思いでみている。その出版社を第一書房といった。この第一書房こそは、近代日本に於ける、もっとも美しい本を出した、出そうとした、特別の版元として記憶されてよい。そして中身の詩についても、一家言を有する人であったが、そのお目がねに叶って美しい詩集を世に出してもらった詩人は何人かいる。その代表は田中冬二であるが、堀口大学もまた、長谷川のお気に入りの人であった。
 昭和二年十二月十日発行の初版特装本限定1500部のうちの一冊を、きょう我が書室に迎え入れることができた。ごく上質の料紙に活版の印字も鮮やかな、そして表紙は四色の墨流しに茶の革背、そこへ天金を奢って、背文字も金の箔押しだ。こういう本を作ってもらった訳者の堀口大学はさぞ嬉しく思ったであろう。なにしろ、刊行されてから百年近く経ったこんにちただいまでも、ただこの本を手に入れて嬉しがっている人間がいるのだから。ましてや、大学は刷り上がってきた本書を手にして、一日見飽きなかったのではあるまいか。