2011年4月5日火曜日

坂口貴信君独立披露能

 ちょっと時間が経ってしまったけれど、三月の二十七日、観世流能楽師坂口貴信君が、宗家内弟子から独立したことを記念して、郷里の博多大濠能楽堂において、秘曲『石橋』を舞った。坂口君は、わが林望事務所番頭坂口翠君の実兄で、私の芸大時代の教え子でもある。そんな関係もあって、この独立能の解説をしに博多まで出向いてきた。この不穏な情勢のなかで、しかし、公演は満員の盛況で、大成功裡にめでたく舞納めた。『石橋』は、小書きつきの半能で演じられることがおおく、まったく何の小書きもない根源の姿で演じるのは、むしろ非常に珍しいと言って良い。昔は、一子相伝の秘曲だったそうであるが、こたびは、宗家直々に後見を務められての披きであった。まことに格調高く、また強づよとした舞ぶりで、獅子の舞の本義にかなうというべきものであった。これより、坂口君は、一人前の能楽師としてますます活躍の場を広げていくことと思うが、どうぞ皆さま御贔屓に願い上げ奉ります。写真の向って右が貴信君、左が翠君、両側に御両親。お父さまの信男師も博多在住の能楽師、貴信君はいわばサラブレッドである。良い演能の一日であった。大濠能楽堂のホワイエにて。