2016年12月11日日曜日
加藤浩子さん著作
つい最近、平凡社から、三冊の本が贈られてきた。見れば、加藤浩子さんの音楽の本で、平凡社新書の三冊である。
加藤さんは、じつは私の慶應義塾女子高教師時代の教え子で、気鋭の音楽学者である。どうも「さん」づけはしっくりしないので、慶應義塾の伝統に従って「君」づけで書く事にしたい。加藤君は、慶應の大学・大学院と音楽学を修めた俊秀で、今は多く啓蒙的な仕事に携わっているらしいが、この三冊などは、そのもっとも良い意味に於ける、格好の啓蒙書である。私などは、若いころから日本のことしか研究してこなかったので、ヨーロッパの文化史についてはまことに疎い一人なのだが、そういう立場でこの三冊を読んでみると、ははあ、そうであったか、なるほどなるほど、と打ち頷かれることが多い。
解りやすく、面白く書かれているので、勉強するというよりは、楽しみながら多くのことを知り得たというところが、すこぶるめでたいのである。
とかく啓蒙書とはいっても、やたらと難しげな表現を使ったり、どうかすると衒学的なところが目立ったりする本も多いのだが、加藤君の著述は、すこしもそういうところがなく、それはもうほんとうに周到稠密に調査が行き届き、また実際の音楽への「愛」が充ち満ちていて、しかも文章が平易闊達、温かな読後感が得られる。
この三冊が平凡社から出たというところも良い。平凡社は、今も良心的な出版の態度を持している珍しい老舗出版社で、私も『イギリスはおいしい』『イギリスは愉快だ』『古今黄金譚』などを同社から刊行しただけでなく、名物雑誌の『太陽』にも、何度か特集の案内役として出た事がある。
はじめて同社から本を出したとき、担当編集者の山口さんは、「初めての本を平凡社から出したというのは、きっと後になって、よかったとお思いになりますよ」と言われたが、果たしてその通りになった。今も私は平凡社の一ファンでもある。
そういう著者としての良心と力量が、出版社としての良心と底力にマッチして、この三冊は音楽ことにオペラ好きの人には必須の「教養書」となった。ぜひご一読を。