このごろの日本は異常な気象がだんだんと普通になってきて、夏はひたすら暑く長く、冬は毎年暖冬ばかりで、ときどき豪雪、みたいな感じである。そうして、もっとも気持ちよく美しい季節である春と秋は、どんどん短く貧弱になっていくような気がする。ふつうだったらもうとっくに秋風が吹き、秋草が咲く季節になっても、連日猛暑日に熱帯夜というありさまで、いつになったらあの気持の良い秋が来るんだろうと、ずいぶん気を揉んだところだった。しかし、暑さ寒さも彼岸までの諺どおり、彼岸の中日を境に急に秋らしく冷涼な日々となった。けれども、こういう気持ちのいい日々は長くは続かない。まもなく暗澹たる霖雨や、台風や、そしてあっというまに冬の寒さがやってくる。
この写真は、先日豊前を逍遥した折に撮影したもので、秋らしい高い空に、一面秋草の咲き敷く田園、これこそ日本の秋の原風景である。このあたりの田んぼでは、まだ稲刈りは始まっていなかった。が、もう稲穂は実って、秋空によく似合っていた。ああ、美しい秋!
早稲の香や分け入る右は有磯海 芭蕉