2010年11月23日火曜日

久保田芳太郎先生

私が大切な教えを受けたのは、なにも慶応義塾の先生がたばかりではない。この写真の恰幅の良い方は、私が東横学園女子短大の教員をしていたときの国文学科長で、近代文学研究者の久保田芳太郎先生である。この写真は、おそらく上野毛のさる料理屋で撮影されたものかと思うけれど、はっきりしない。さて、久保田先生は、いわゆる「太っ腹」というのがもっとも当っているだろうような、人柄の大きな、そしてほんとうに愉快な先生で、いわば「人生の師」ともいうべき方だった。とかくぎくしゃくしがちな大学の研究室にあって、早稲田、慶応、国学院、成城、などバラバラの大学出身の、しかもみな一廉の研究者として個性の強い若者ばかり、それをぐうとも言わせずに、すべてを笑顔と包容力で掌握していたのが早稲田出身の久保田先生であった。私などは、ずいぶん自由闊達にいろいろなことをさせていただき、そして、イギリスに留学することを勧めてくださったのも久保田先生であった。懐かしいといって、これほど懐かしい方もいない。先生はある時忽然として世を去られたが、その晩年がどうであったか、じつは私どもにはまったく分かっていない。ああ、久保田先生に、もう一度会いたいなあ。