2010年11月26日金曜日
エリックを探して
近く公開される『エリックを探して』というイギリス映画の試写版を見た。これが、劈頭から、ずっと真っ暗な画面のなかに陰々滅々たる、パッとしない労働者オヤジの、しかもダメ男の主人公が、なにやら惨憺たる暮らしをしているところばかり写しだされて、こりゃあエラク暗い映画だなあ、と半ば閉口しながら見ていたところ、この男の心の中のヒーロー、サッカーのスーパースター、エリック・カントナ(の幻影)が、いろいろと彼にアドバイスし力づけ、そして最後は、そりゃもうハチャメチャに愉しい、痛快無双の解決が待っているという、どうしたって涙なくしては見られない傑作であった。このカントナ役には、なんと本物のカントナ本人が出演していて、ショーン・コネリーばりの渋い男前と名演技を見せる。感心。監督は名匠ケン・ローチ、脚本は、スコットランド人とアイルランド人を両親にもつ法律家ポール・ラヴァティ(それゆえ、全体にアイリッシュ的風韻が横溢している)、そして主演は、スティーヴ・エヴェッツ。ともかくものすごく男臭い、労働者英語満開の、徹底的にアナログで古風な映画作法による傑作。もうコンピュータグラフィックで捏ね上げた最近の巨篇映画や魔法童話には飽き飽きしたという人には、ぜひお勧めの一作である。