2010年11月24日水曜日
観世能楽堂
きょうは観世流の下平克宏さんの演能の会で、解説を頼まれて30分ほど、渋谷松濤の観世能楽堂で話しをしてきた。演目は『熊野』。平宗盛の愛妾熊野(ゆや)には、郷里の池田宿に年老いた母が残っていて、いまや病のために余命いくばくもない、そういう状態でありながら、宗盛が熊野を手放すことを肯んぜず、花見に伴って宴をしようという。熊野はかごの鳥の悲しさで、帰りたい一心でありながら、主宗盛の命にしたがって舞を舞うという、そういう曲なのだが、美しい花の宴、そして郷里の母の命、板挟みになってなお美しく舞うということがこの曲の眼目である。下平さんのシテ熊野は、いかにもおっとりと優しく、品格のある演技で、とてもよかった。また、大鼓亀井広忠、小鼓大倉源次郎、笛松田弘之の囃し方の豪華メンバーはさすがに期待を裏切らない。みごとな演奏で堪能した。ワキの森常好さんの宗盛も、傲慢な感じというよりは、どこかおっとりとした品があって、いかにも平家の棟梁らしい雰囲気がよかった。なかなか結構な能であった。