2017年5月4日木曜日

安曇野の春


 東京はもう初夏という佇まいだが、安曇野はまだ春のただ中にある。
 いまちょうど、田という田に水が張られ、一枚また一枚と田植えが進んでいる。まもなく安曇野はどこも緑の早苗に覆われることであろう。この写真は穂高のあたりの景色だが、まだ背後の北アルプスの山陵には真っ白く雪が積っている。この雪が融けて流れて田を潤し、地に滲み入ってはやがて安曇野の名水を生むのである。


 北国の里山は、針葉樹の濃緑と、落葉樹の若緑とが美しい混淆をなし、そうしてそのはざまに山桜が満開に咲いている。野には連翹、里桜などなど、百花将に繚乱、しかし、このもっとも美しい季節はあっという間に過ぎて、まもなく初夏の佇まいに変じていくことであろう。

 わがエコノミスト村も、新緑が美しく、水仙や菫、躑躅などの花々が可憐に地を彩っている。冬眠から醒めた熊もおそらくはそこらを歩いていることであろう。猿の群れは村の中を我が物顔に徘徊し、狐やカモシカなども目の当たりに見る事ができる。鳥のことはあまり詳しくもないのだが、日なかに老い鴬が鳴くのを聞いた。樹間遥かに見えるのは北葛岳の雪峰である。

2017年4月26日水曜日

Songs of Travel


 きょうは、かねて注文していたヴォーン=ウイリアムズの『旅の歌』の楽譜が届いた。
 とくにその第一曲の「ヴァガボンド」という歌は人口に膾炙していて、多くの歌手が歌っているけれど、なかなかこの全曲演奏を聞く機会は日本では無い。
 そこで、YouTubeの動画にどんなのが上がっているかな、という興味を持って検索してみたら、いくつか全曲演奏の動画を見付けた。
 片端からそれを聴きながら、ずっと楽譜を読んでいると、ああこれはいい作品だなあと今さらながら心にずんと来るのであった。
 なかでも、第七曲の「Whither must I wander」という歌はほんとうにしみじみとして、詩も曲もまことに美しい。聴いているうちに涙が出てくる。そうして、この曲は練習すれば私自身も歌えるような気がしてきた。いや、ぜったいにこれは歌ってみたい。詩は、ロバート・ルイス・スティーヴンソンである。この詩が絶品である。
 それを聴いたついでに、あのロイヤル・アルバート・ホールで毎夏毎日催されるBBCのPROMの動画もいくつか見た。とくに最終日の、「Rule Britania」やら、「Land of Hope and Glory」などは、聴衆総立ちでみんな大声で歌っている。ああ自分もここにもう一回行ってみたいなあと、つくづくイギリスが懐かしくなった。そうして、やっぱり俺はイギリスが好きだ、と自分に向って呟いた。

2017年4月21日金曜日

筍のマリネ


 平塚にお住まいの友人Mさんから、御自宅の庭で取れた筍を送っていただいた。毎年頂戴するのだが、今年のはまた例年にまして、アクがなく、柔らかでとびきりの美味であった。もちろん、さっそくに糠を入れて一時間ほど湯がき、そのまま冷まして、下ごしらえは完了。まずは若竹煮を作り、さらに筍ご飯を炊いた。
 とまあ、ここまでは当たり前の筍料理だが、さて、なにか珍しい、また美味しい趣向はないだろうかと知恵を絞る事しばし、これをちょっとマリネにしてみてはどうだろうかという妻の示唆もあって、さっそく作ってみた。
 まず湯がいた筍を櫛形に薄く切り、これに小麦粉を打って、サラダ油でカラリとなるまで揚げる。その前に、酒、味醂、砂糖、減塩醤油、酢、鷹の爪でマリネ汁を作り、同時に玉ねぎをスライスして、さっと熱湯を潜らせて臭みと辛味をとっておく。この玉ねぎスライスをバットに置いて、上から熱したマリネ汁をかけ、カラカラと揚がった筍をば、ジュワジュワッっとこのマリネ汁に落す。
 そうしてすっかりマリネし終ったら玉ねぎスライスを上に被せて、ラップをして冷蔵庫に半日くらい置くとよい。冷えるにしたがって味はよく染み込み、どこかワカサギのマリネ風の姿になってくるが、あじは歴然として筍。しかも柔らかくてさくさくして、じつに美味しい発明料理となった。マリネ汁を濃すぎないように作ることが旨く作るコツである。
 ぜひお試しあれ。

2017年4月17日月曜日

信濃川


15・16の両日、新潟に行ってきた。
 新潟市のリュートピア能楽堂で、遠藤和久・喜久兄弟の能楽師による二番能があって、去年は曽我兄弟がテーマだったのだが、今年は『平家物語』をテーマとして、第一部は『二人静』そして第二部は『船弁慶』という番組であった。
 その解説を終えて、私は帰途についたが、例によって自分の車を運転しての新潟往復、片道約320キロほどの道のりで、まあ独り気楽にドライブしていくにはちょうどいい距離というか、充分に運転の旅を楽しんできた。
 しかし、折柄花見時の週末とあって、とくに帰りは日曜の午後、帰途についた時には、すでに上り線は三十キロの渋滞ということになっていた。
 このまま渋滞に突っ込むのは楽しくない。
 そこで、あちこちのPAで休憩を取り、またはところどころインターで下道に降りて、しばらくは一般国道を走ってみたり、また景色の面白そうなところでは、あれこれと寄り道をしたり、そこらのラーメン屋に入ってみたり、この自由自在こそが自動車旅の醍醐味である。
 今回は、日の暮れぬうちにと思って小千谷インターで高速を降り、しばらく信濃川沿いの国道を走ってみた。
 やがて信濃川も中流域の荒々しい姿を見せ始め、あたりは豪雪地帯とあって、四月の中旬気温は15度くらいにもなろうというのに、まだまだそこら中に雪が残っている。私はしばらく人気もない信濃川堤を逍遥して、その荒々しい川の景色を写真に収めた。こういう景色に遭遇して、ゆっくりと写真など撮る、自動車旅は楽しいなあ、と改めて思ったところであった。
 そんなふうに寄り道のゆっくり旅をしているうちに夜になり、渋滞はもうすっかり解消していたのであった。旅は急がぬに限る。

2017年4月10日月曜日

昆布食パン


 大阪淀屋橋に神宗(かんそう)という昆布の老舗がある。その御主人はさすがに美味しいものが好きで、タバコが嫌いで、しかもお酒を飲まない、ときているので、ちかごろすっかり意気投合し、同社の広報雑誌に料理をつくったり、またご主人の尾嵜さんと対談をしたり、更には、同じく名高い料理人にして、やはりタバコ嫌いで下戸という祇園浜作(はまさく)のご主人ともいっしょに料理談義をしたり、ずいぶん面白いことになっている。
 さて、その広報雑誌に、同社の塩昆布を用いた料理を作ってほしいという依頼を受けて、何品か作った。
 ●蕎麦米の野菜餡かけ、昆布風味
 ●塩昆布入り、甘酒と豆乳のアイスクリーム
というのがその時作った品目だが、じつはそのほかにもアイデアがあった。一つは、衣に昆布を混ぜて揚げた豚ヒレ肉の竜田揚げであるが、これは美味しかったけれども、雑誌には出さなかった。
 もう一つが、ここもとお目にかける「昆布食パン」である。
 なに、作りかたはごく簡単で、同社の塩昆布を細かく切って、粉に交え、自動パン焼き器で焼くだけのことだから、どうってことはない。しかし、その取材のときは時間がなくて焼くことができなかったので、きょう、作ってみた。すると、あら不思議。この神宗の塩昆布は塩だけでなく甘みもあるので、食パンもふんわりと瑞々しく、なおかつ塩気と甘みがバランスよく仕上がったのは期待以上であった。昆布の薫りは幽かにするが、パンの芳香を邪魔する事はなく、ただ、ほのかに旨味が加わったという感じであろうか。とてもおいしい食パンになった。
 もし興味がお有りの方は、大阪神宗の塩昆布(細切り)を買い求めて(通販で手に入る)ぜひ試しに作ってごらんになるとよい。
 

2017年3月24日金曜日

巴水の日本憧憬


 
 きょう、新著の『巴水の日本憧憬』(河出書房新社)がリリースされた。
 去年から編輯・執筆に当っていたものだが、今回は、大田区立郷土博物館の全面的なご協力を得て、多くの資料に直接当って調べることができ、また同館から多くの画像データ使用を許されて、美術書として極めてクオリティの高い出来上がりになったことを、大変に嬉しく思っている。とくにこの大田区立郷土博物館の皆様のご協力には深く深く感謝をしているところである。
 巴水は、私が青年時代からずっと愛好し注目して、また昔は作品もまだまだ安価であったこともあり、何十年と蒐集してきたところでもある。今回は、その家蔵の作品をも少なからず版下として使用した。今日では、あのアップルのスティーブ・ジョブズがコレクターとして多くの作品を買い集めたこともあって、俄に注目を浴び、作品は驚くほど高騰してしまったこと、これは嬉しくもあり悲しくもある。
 出版にあたっては、木版画の風趣、刷りの味わいを極力再現するために、製本、料紙、印刷などに格別の注意を払い、装訂はコデックスとして、フラストレーションなくページがきれいに開いて、見開き図版も中央で分断されることがないように配慮したところである。しかも極く厚いボール紙の表紙をつけて(現代のボール表紙本?!)じつに立派な書姿を持った一冊に仕上げてもらった。これについては、版元と編集者、また印刷・製本会社の皆様に格別のご努力を頂いたところである。
 さらには、川本三郎先生より、すばらしい特別寄稿を頂戴して、花を添えていただいた。今回初めてこういうかたちで紹介する作品も何点かあり、巴水に新しい光を当てるという意味でも、私なりに力を尽くしたつもりである。
 これから、できるだけ講演会やサイン会など催して、多くの方々に手に取っていただこうと思っている。
 巴水を御存知のかたはもちろん、御存知のないかたもぜひこの際、川瀬巴水という素晴らしい画家が大正昭和の日本にいたことを知って、その美しい版画世界を味わっていただきたいと思うのである。

2017年3月18日土曜日

カードを作る

写真をクリックして拡大してご覧下さい。

 このほど、新しくカードを四種作った。かねてから、自作の絵や写真をアレンジして、二つ折りカード用紙に適宜案配し、キャノンのプリンタで印刷して自家用のカードを作っては、グリーティング・カードとして用いたり、あるいは普通に書いた手紙を四つ折りにしてこのカードに挟んで封筒に入れる、などの使い方をしてきたから、こういうカードを受け取ったかたも少なからずあることと思う。今までは、昔イスタンブールのホテル・ペラパラスのアガサ・クリスティゆかりの部屋からスケッチした朝の街風景のカードと、下関の近くの古い漁港の風景のカード(いずれも自画)、それから明治の古い東京風景画を使ったカードなどを使用してきたが、ちょっと新しいのを作りたいと思い、今回また、いずれも自分で描いた絵をスキャンして、新しく作ったのである。前の二枚は、ヴィンテージ・カー(鉛筆画)とバルカン特急寝台車内のエッチング(ペン画に淡彩)、後ろはロンドン西部にある15世紀の古建築(水墨)と、山羊(水墨に淡彩)と、いずれも趣の異なる絵を選んだ。これで季節がらや内容を勘案して、適切なカードを使うというわけである。売ってるカードはつまらない。やはり自分で描いた絵のカードに限る。絵はまだ何百点も保存しているから、さあ、これからまたどんなカードを作ろうか・・・。