2008年9月23日火曜日

お彼岸

 萩からの帰り道、中国山地のしっぽというか、秋吉台の近くの山
道を抜けると、もう刈入れも済んだ田の畔に、いちめんに彼岸花が
咲いていた。彼岸花には白いのもあるけれど、やっぱりこの血の色
のように赤いのが彼岸花らしくてよい。中国山地は穏やかで、いわ
ゆる山紫水明の処という風情が横溢している。山は幾重にも折り重
なって、しかも、深からず、高からず、ちょうど人の背丈によく似
合うという感じがする。家々は、この地方独特の茶色い瓦をのせた
古風な作りで、いわゆる小国寡民、鶏犬相聞こゆるという空気であ
る。もし何も心配なく隠居するとしたら、こういうところが良いか
も知れぬ。海も近く、どうかすれば海風の通いすら感じられる。そ
して海の幸山の幸にも事欠かぬ、長門周防あたりの山里はいかにも
味わい深い。

2008年9月21日日曜日

萩、あじろ

9月19日の夜、萩市民会館において、同市主催の講演会があ
り、そこで『薩摩スチューデントと長州ファイブ』という話をして
きた。あいにくと、というべきか、例によってというべきか、迷走台風の
13号が、よりにもよって、西日本直撃かという危うい日時に遭遇
し、当初飛行機で行く予定を急遽変更して新幹線で行った。まった
く、雨男どころか、嵐男の異名をとる私のこととて、しかたないと
言えばしかたないけれど、難儀なことであった。主催者もさぞ肝を
揉んだことであろう。しかし、市のほうでは、野村興児市長も来聴
されて、大変な熱の入りようで、おかげさまで盛況のうちに講演会
は終了した。この写真は、講演の前に野村市長の招きで同市南片河
町にある懐石料理店「あじろ」で御馳走になった時の撮影。左が野
村市長、真ん中の白衣姿がこの店のご主人田中利隆さん。お料理
は、お世辞抜きで、まことに結構至極、新鮮な魚介を中心として、
全ての品が、どんぴしゃりと味の決まった名品であったのには、心
から敬服。大いに舌鼓を打ったのだが、あまりにも舌鼓ばかり打ち
過ぎて、ついにその肝心のお料理の写真を撮るのも忘れて、ガツガ
ツと食べ尽くしてしまい、後になって「しまった!」と思ったが、
後の祭りであった。呵呵。萩市に行ったら是非立ち寄りたい店である。

2008年9月16日火曜日

Scotch Broth

読者の方から、BBSにお訊ねのあった、スコッチ・ブロスのレ
セピを、『Mrs Beeton's All About Cookery』(刊年未詳、
二十世紀初頭ころの刊本。家蔵)のなかからお目にかけます。試し
に作ってみてください。イギリスの料理については、まず何を置い
ても、このビートン夫人の家政書を見るのが原則で、そこには大抵
のことが出ています。

武蔵野合唱団

 
きょうは武蔵野合唱団の特別公演というコンサートを聴きに行って
きた。というのは、ご覧のように、わが『夢の意味』が、作曲者上
田真樹君自身の手でオーケストラ伴奏版に編曲され、それを芸大の
手だれ揃いの若手オケ、横浜シンフォニエッタが演奏し、山田和樹
が熱血指揮するというので、これはもうワクワクしながらその初演
を聴きにいったのだ。武蔵野合唱団というのは、もともとこの武蔵
野市の緑町団地のコーラスグループから発展して、もう創立五十年
にもなるという、実力と規模を兼ね備えたアマチュア合唱団で、本
日も合唱だけで百五十人が乗るという壮大な演奏会となった。ほか
にはモーツァルト二作品、というちょっと風変わりなプログラムだ
が、そこへ、この合唱団出身だという、名テノール佐野成宏さん
が、客席から呼ばれて、『カタリー』と『オー・ソレ・ミオ』の二
曲を、マエストロ小林研一郎のピアノ伴奏で熱唱するというオマケ
までついて、なかなか楽しい良い演奏会であった。この『夢の意
味』は、昨年、東京混声合唱団の委嘱で作られて、その後、楽譜や
CDも出て世に知られるようになったが、今回はまたオケ伴奏とい
うスケールの大きな楽曲に成長、またこの秋には、早稲田大学のグ
リークラブが男声合唱版を初演するということになっている。上田
真樹君の音楽の素晴らしさは、曲を聴いていただければ、どなたに
も了解せられよう。美しくて分かり易くて、しかも心の奥にまで届
いてくる圧倒的な慰安の力を持っている。これが音楽なのだ。そう
いう曲は、現代ではほとんど見あたらないので、近来の傑作である
ことは動くまい。今後は、早稲田だけでなくて、たとえばわが母
校、慶應義塾大学楽友会あたりが、堂々たるスケールで再演してく
れないかなあと熱望しているところである。されば慶應の楽友会の
方、どうぞ、林望事務所(菊籬高志堂事務局)までご連絡くださ
い。待っています。

2008年9月10日水曜日

アメリカの孫

 
 アメリカに嫁いでいる娘春菜が、このほどめでたく男の子を出産
した。私にとっても、またアメリカ人の夫ダニー君の実家にとって
も初めての孫で、両家の両親、それから曽祖父曽祖母たちから、等
しく祝福を受けて、安寧のうちに元気にお乳を飲んでいるというこ
とである。私は忙しくてアメリカまで孫の顔を見には行かれないけ
れど、ありがたい世の中、ねんじゅうメールやスカイプで連絡をし
ているので、すぐそこにいるような感じがする。ところで、この写
真は、そのこのほど生まれた赤ちゃんではない。これは、その娘の
春菜が生まれて間もなくのころに撮った写真で、つまりこの赤ちゃ
んが成人して、このたび母親になったのである。そこで、この写真
の母親、つまり私の妻は、めでたくお祖母ちゃんとなった。時の経
つのはまことに速やかであることが実感される。

2008年9月7日日曜日

釜膳

 きょうは久しぶりに、三鷹の「釜膳」まで、釜飯を食べに行った。
 釜膳は、私の大好きな釜飯屋さんで、この写真では分からないけ
れど、一見まるで釜飯屋には見えないような、モダニズム風の設い
になっているところがまた良い。私はいつも定番の五目釜飯のコー
スを取るのだが(夜はコース料理のみ)、エビカニアレルギーなの
で、エビの代りに、他の魚介を入れてくれる。きょうはホタテが
入っていた。これが牡蠣のこともあり、いろいろと楽しい。コース
は煮物和え物の八寸(オードブル)に始まって、魚、肉、汁、釜
飯、と続くのだが、私は脂肪をできるだけ取らない食生活だという
ことを了解してくれていて、肉の代りに魚の焼き物を作ってくれ
た。刺し身は、マグロの酢味噌サラダ仕立て、鮭とジャガイモのグ
ラタン風、松茸の土瓶蒸し、そしてこの五目釜飯。これが優に三膳
分くらいあって、その最後のお焦げのところを、出汁漬けにして食
べるという趣向。これがまたなんとしても美味しいのだ。そうとう
な健啖家でも十分満腹にしてくれるだけのヴォリュームがあるが、
なにせ消化のいい和食なので、夜中にはきれいに消化して、はや空
腹感を覚える。おいしかったなあ、今日も。三鷹駅北口から歩いて
すぐのところにある。
釜膳 武蔵野市中町2-1-10 アップルウェイ1F 
0422-53-1007 定休水曜日

2008年9月6日土曜日

鞍馬天狗

 
 九月三日に、逗子で能楽解説の講演をしてきた。
 ちかぢかに柴田稔師の公演があるので、その前講義ということ
で、『鞍馬天狗』について話をしてきたのだが、熱心な聴衆で話し
やすかった。逗子はちょっと遠かったけれど・・・。
 掲出の図は、『和漢朗詠集註』という江戸前期の刊本(家蔵)
で、これは漢詩句の註は永済、和歌の註は北村季吟の手になる。和
漢朗詠の注釈書のスタンダードというべき名著である。この部分
は、漢の高祖の臣、張良が黄石公から兵法の奥義『三略』を授かる
という伝説、有名な逸話であって、日本でも広く知られている。
『鞍馬天狗』は、鞍馬の大天狗が牛若丸に兵法の奥義を授ける話
で、この張良の伝説などがもとになっているものと見られ
る。・・・というような話をしてきたのであった。

2008年9月2日火曜日

リンゴでお茶

ひさしぶりに、お茶の写真を。
このお皿にのっているものは、リンゴを甘く煮たもので、私の大好
物。リンゴを皮ごとごろごろとした大きさに切って、砂
糖、100%果汁のオレンジジュース、シナモン、白ワイン、そ
れに干し葡萄、とこう加えて煮るだけのことで、難しい手技はなに
もいらない。ただそうやってとろとろと弱火で煮詰めると、こんな
に色の美しい煮リンゴができる。右の蕎麦猪口に入れてあるのは、
黒胡椒を挽き入れたプレーンヨーグルト(無脂肪)。食べるとき
は、もちろんリンゴだけ食べてもいいけれど、より美味しくたべる
ためには、イギリス風薄切りパンのトーストに、このリンゴを載せ
て、上からヨーグルトを一匙かけてパクリと行く。相方はもちろん
熱いミルクティでなくてはならぬ。コーヒーなんて野暮なものを飲
むと、せっかくのデリケートなリンゴの香りが死んでしまう。

黒茶屋

 九月になった。
 時の経つことの疾き、まことに年々歳々加速度が付いていくよう
に思われる。八月の下旬から今日までは夏休みのつもりだったが、
結局、まったく一日の休みも取れないような調子で月日が過ぎた。
 きょうはその夏休み最後の一日だったので、昼間の面会仕事を終
えて、ふと思い立って妻と二人、五日市の黒茶屋という店へぶらり
と夕食を食べにいった。ほとんどは野菜で、鮎とヤマメを炭火焼き
で食べるという趣向、なかなか結構であった。黒茶屋は、御覧のよ
うな黒光りする古い民家を再生した店構えで、あたりはもう奥多摩
の山、秋川の清流、雰囲気がとてもよい。ちょっとだけ「休暇」の
気分を味わった。