2010年3月28日日曜日

ある晴れた日に

26日、27日と、長崎へ行ってきた。むろん観光に行ったのではなくて、講演の仕事である。が、いつものように、講演当日の午前中は車を走らせて、「隠れたる名景」を探しに行った。この風景は、大村の町からすこし外れた山の上からの眺めで、折しも好天、しかも、からりと乾燥して空気の冷たい、まるでイギリスの六月のような気持ちのいい朝であった。この写真の背後には、耕して天に至る段畠が山を蔽い、その多くは蜜柑畑だが、いちぶ地を黄金色に染めて菜の花が咲き満ちている畠もあった。大村湾は、まるでとろりとしているように波静かで、あのプッチーニの「ある晴れた日に」などが心のうちに聞こえる気がした。

2010年3月22日月曜日

謹訳 源氏物語、第一巻、遂に刊行!


ずいぶん長らくのご無沙汰で申し訳ありません。一ヶ月ぶりの更新です。
ようやく、拙著『謹訳 源氏物語』第一巻が、三月十七日に刊行になりました。おかげさまで各メディアなどにもお取り上げいただき、好調な立ち上がりとなりました。この本は、私自ら装訂デザインを致しましたが、コデックス装という新しい造本を採用しました。これは背表紙がなく、糸かがりと糊で綴じるやりかたで、平安朝から中世にかけて、貴族の世界の装訂として用いられた「綴葉装」と原理的には全く同じです。温故知新というところですね。写真のように、ノドが柔らかくすっきりと開いて読みやすいのがなによりの特徴です。表紙は漆の朱を想定した朱色、天のところに若草色を配して、装束の袖口や襟元の感じを出しました。この第一巻は「若紫」まで。巻ごとに、この天の配色は変ります。全部で原稿用紙六千枚にも及ぶ巨大な仕事で、現在もせっせと書き続けています。第二巻は四月、第三巻は六月、第四巻は九月、と矢継ぎ早に刊行し、あとは三ヶ月に一冊ずつ出す予定になっています。ともかく荒行のように厳しい仕事で、気力、体力、知力、みな充実していなくてはとても成就できませんので、日々、斎戒沐浴、昼夜に亙って毎日十キロの速歩を欠かさず、食事にもじゅうじゅう気をつけて、ひたすらにコンピュータに向かい、各種の工具書・注釈書・参考資料などを操作しながら、必死の毎日です。この六千枚を二年間で書き終えるというのは、生やさしいことではありませんが、しかし、源氏物語という稀世の傑作の面白さに惹かれながら、なんとかしてその面白さを極限まで現代語でお伝えできるように、智慧の限りをつくしているところです。どうか皆様いっそうの御支援をお願い申し上げます。