2018年1月22日月曜日

大雪の夜


 本州南岸を低気圧が通過し、日本海方面にシベリア寒気団が居座っているという状態のときには、東京にも大雪がふる。
 思い出すのは、四年ほど前のバレンタインの夜、その夜は一日じゅう降り続いた雪が夜に入ってもやまず、東京としては異例の大雪になって、交通は大混乱となった。
 その時と寸分違わぬような気圧配置になり、きょうは朝から小金井あたりはすっかり雪で、夜になるころには、もう三十センチないし深いところでは四十センチも積ったかというくらいの、とんでもない大雪になった。
 明日はよりにもよって、東京で一番坂道の多い神楽坂で講演である。聴衆はご高齢のご婦人ばかりなので、万一にも転倒して骨折などということがあってはいけないから、延期したらどうだと主催者に申し入れたが、いまさら周知の方法がないというので、強行するという返事であった。無責任というのはこれであろうと私は思う。
 ともあれ、夜になって、突然地震が来たかと思うような轟音とともに、家全体が震動したので、なんだろうと思ったら、屋根の雪が南側のベランダにいちどきに落下したのであった。あー、びっくり。その結果、この写真のように、ベランダはまったく雪に埋もれてしまって、ドアも開かなくなった。小金井にもう五十年も住んでいるが、こんなふうに雪に埋もれたベランダをみるのはこれが初めてである。
 雪国の方々のご苦難が偲ばれるが、東京には、除雪車の装備もなく、融雪装置もなく、市役所から除雪に来てくれるでもなく、住民は著しい高齢化で、雪かきをする力もないから、こういう雪がふると小金井あたりでは、だれもが困り果ててしまう。さあ、あすの神楽坂までどうやってでかけるか・・・、ほんとうに、こんなときはぜひ中止にするという責任感が、主催者にはあらまほしい。

2018年1月21日日曜日

栗橋の静御前


 きょう、1月21日は、埼玉県久喜市の栗橋宿まで、講演に出かけた。
 栗橋で、「文学的存在としての静御前」という話をしてきたのである。
 源義経の愛妾であった白拍子静御前の名前はつとに有名であるが、その実、ほんとうのところどんな人であったのかはよく分かっていない。
 いちばん史実に近いのは『吾妻鑑』の記述かと思われるが、それとて、鎌倉幕府の意向で編纂された史書だから、いわば頼朝サイドに都合よく書かれているという偏向があるだろうことは容易に想像される。つぎに詳しいのは『義経記』の記述だが、もとよりこの書は、かなり恣意的に脚色された「物語」であって、史的にはとうてい信頼するに足りない。この『吾妻鑑』と『義経記』を比較しながら、さらにそこに、『平家物語』の記述や『徒然草』の伝えるところなどを勘案しつつ、文学史上の静御前について思うところを話してきた。同時に、各地に残る静御前伝説についても、諸書を引きつつ概説したところである。どうして栗橋で静御前なのかというと、静は淡路、奈良、信濃、前橋、などあちこちにその墓と称するものがあって、享年も24ともいい47ともいい、一定しない。そんななかで、栗橋にも静の墓と伝えるものが現存し、口碑では、一旦京都に戻った静は、義経を慕って平泉まで行こうとしたが、栗橋まで来たときに義経の自害破滅を知り、絶望してここで病没したというのである。そんなことで、町おこしの一環として、おおいに静に注目しようというので、私がその文学側からの実際をお話しすることにしたのである。
 栗橋イリスという会場はほとんど満席で、熱気あふれる聴衆を前に、いろいろ詳しくお話しをした。写真は、栗橋駅前にある静の墓所といわれるところで、ちょっと顔看板の写真を撮ってきたのだが、義経とは似ても似つかぬ顔にて、まことに恐縮の次第である。

2018年1月7日日曜日

風邪ひき


 『風邪はひかぬにこしたことはない』(ちくま文庫)という本を書いたくらいで、日頃から、なんとして風邪をひかずにすませるかということに、並々ならぬ熱情を注いでいるにもかかわらず、本欄の「クリスマス」を書いた翌日、すなわち12月27日から、突如として風邪に掴まってしまった。じつに不覚である。不覚であるが、どこでどう移されたものか、皆目見当が付かぬから弱る。
 咽喉が痛み、やがて全身の倦怠感に及び、微熱が出て、鼻がつまり、さらには頭痛がしたり、食欲不振になったり、まことにご定法どおりの風邪で、転々と症状は入れ替わるのであった。風邪に根本的な治療薬はないから、私はもっぱら天津感冒片などの漢方を以て、これに応戦したが、それもそうそう効果が実感できるほどでもない。ただ、私は喘息を持っている関係で、気管支に入ってしまうと大変なので、そこは呼吸器科の主治医の教えに従って、きちんと吸入を継続したので、ついにひどい気管支の咳にはならないまま、やっと治ってきた。ほぼ収束してきたかなあと思えたのは、じつに7日、すなわち今日であるから、発病から十日間の苦難の道であった。
 この間、すべての予定はキャンセルして、ひたすら養生していたせいで、なにもかも予定は大狂い、これからその遅れた分を取り戻すべく、頑張らなくてはならぬ。
 しかし、風邪というものは迷惑だ。迷惑だが、まあメリットもないではないので、『風邪の効用』という本を一読したところ、風邪を引くと血管が軟化し、従って血圧が下るという記事があった。さっそく試しに測ってみると、たしかに上下とも10くらいは下っているのはじつに不思議である。
 とはいえしかし、やっぱり風邪はひかぬに越したことはないように思われる。