2012年1月26日木曜日

夕星俳座

 昨年三月に立ち上げた我が句会『夕星俳座』も、はや年を越した。新年の句会は、ちょっと気張って、入谷の普茶料理店「梵」に会場をお借りして、ご馳走を食べるのと両方のお楽しみとした。わが句会としてはあくまでも例外的開催である。
 みよ、この同人たちの、真剣そのものの表情を。これは只今配られた句一覧を睨みながら、各人それぞれに選句をしているところである。
 この後、各人五句ずつを選んで、そのうち一句を特選とし、平選句は一点、特選は二点として、点数を集計し、点数の多い句から順に、みなで合評をしていく。合評ったって、目を三角にしてやり合うのではなくて、和気靄々、微笑哄笑苦笑憫笑のうちに、それぞれの句の良さ、また不足なところなどを忌憚なく語り合う。こういうことによって、自然自然に、俳句というものの面白さや難しさが分かってきて、いつしか上達していくものである。世上一般の句会と違って、師匠だの弟子だのという関係性はないので、みんな平民、みんな平等、そこがまた愉しい。

2012年1月18日水曜日

笑福食堂

 わがHPの表紙の写真は折々入れ替えているのだが、今回新しくした写真は、なかなか好評で、これはどこの食堂かという御質問が多い。
 そこで、これを種明かしすると、この写真の「笑福食堂」という目出度い屋号の中華料理店なのである。日豊本線の豊前松江という小さなローカル駅の真ん前にある食堂で、駅のすぐ向こうはもう海、というまことに牧歌的なたたずまいのところである。いつぞや、九州の苅田町へ講演の折に、その辺りの風景探索にぶらりでかけたついでに、ふとこの食堂に立ちよって皿うどんを食べたことがある。写真は、その折りに、セルフタイマーを用いて撮影した一枚。
 私の旅は、いつもこういう調子で、ガイドブックなどにはまず出てこないような、「地元食堂」に、出合い頭に入って食べる。おいしい店に当ることもあるし、とんでもないものに出会うこともある。しかし、そういう不確定な、未知との遭遇が、もっとも楽しいのだ。
 ちなみに、ここの皿うどんは、なかなか結構なお味でありました。

2012年1月17日火曜日

いきいき

 1月16日は、神楽坂の日本出版クラブというところを会場として、雑誌「いきいき」主催の源氏物語講演シリーズの第六回をやった。今回は、「夫婦喧嘩」がテーマで、源氏と紫上の、腹の探り合いのようなやりとりと、夕霧と雲井の雁の、もっと陽性で憎めない喧嘩沙汰と、その二つを比べながら、源氏物語が、いかに細かなところまで、人心の綾を穿って書かれているかというところを、すこし詳しく読んでみたのである。そうすると、時代や身分は違っても、やはり男と女の心のすれ違いのようなことは千古不易だなあと、しんみりもし、おかしくもあり、また人間はかわいいものだなあと痛感するのであった。
 今回も、いつも若々しくお元気な清川妙先生と、園芸家・エッセイ作家の桐原春子さんと、お二方が特別聴講にお見えくださった。
 詳しく読めば読むほどに、源氏物語の、精妙巧緻な筆の運びに、いつも感心させられる。とかく、ただ読んでいるだけだと、ついついスーッと通り過ぎてしまいがちなものだが、こうして講釈をするために詳しく勉強をすると、なんとなく理解したつもりで通り過ぎていたところにも、こまかな文章の綾が仕掛けられてあったことに、ふと気付いたりすることが多くて、つくづく大変な作品である。
 朗読したり、講義したりの間に気付いた謹訳の誤りや、不十分なところについては、増刷のたびに修正補筆しているのだが、今後とも、虚心坦懐にこの大文学に向かい合って、日々少しでも原作そのものに肉迫していくように心がけたいと、そう思うことしきりである。

2012年1月9日月曜日

白州の家


 山梨県北杜市白州の山中に、ささやかな山荘を持っている。大昔、子供時代には、父の作った信濃大町の山荘で、いつも夏を過したので、それがすっかり習慣となって、東京で酷暑の夏を過すことは、若い時分にはほとんどなかった。まだ子供が小さかった頃には、ひと夏を過すための厖大な書物などを車に積んで、大町へ行き、自然の冷気のなかで心豊かな夏を過したものであった。かの『イギリスはおいしい』も、その信濃大町の山荘で勉強しながら、片手間で書いたのであった。
 それから、やがて蓼科高原に第二の山荘を建てて、三十代のころの夏は蓼科高原の家で避暑をして暮したのであったけれど、ここは標高が高過ぎて、どうも頭がボンヤリするのが難点であった。そこで、四十を過ぎて、いよいよ仕事が忙しくなると、もっと低くて近いところに山荘を設けたいと思って、この白州の山荘を造った。自分一人の力で建てた初めての山荘であった。ここはほんとうに気持ちのよい里山の雑木林のなかにあって、私のもっとも好きな場所なのだが、いかんせん忙しくなりすぎて、今はほとんどゆくことができない。子供たちは、みなアメリカに住んでいるので利用する人もなく、まことに勿体ないことである。そこで、しばしば「もう売ってしまおうか」と、夫婦で相談したりもするのだが、いざ行ってみると、まことに快適だし、自分として愛着があって、なかなか売ることができない。それでも、どうしても欲しいという人が現れたら、売っても良いな、くらいには思っているのである。ここは標高が六百メートルくらいだが、林の中なので夏は涼しいのである。真冬は雪も降るので閉じてしまうけれど、春秋などは、新緑に紅葉の景色も素晴らしく、寒ければ薪ストーブを焚いて、火を眺めながら炉辺談話に過す休日など、もっとも心豊かな時を味わうことができる。

2012年1月7日土曜日

新春着物談義

 1月5日の午後三時から五時まで、毎月レギュラー出演している、NHKラジオ第一放送の「つながるラジオ・リンボウ先生のこれが私の暮らし方」、今年最初の出演は、新春特別企画として、檀ふみさんにゲスト出演を願っての着物談義であった。檀さんは、この写真ではわからないけれど、「一富士二鷹三茄子」の初夢に因んだごくごく細かな江戸小紋、淡い橡(つるばみ)色の上品な着物に、手描無線京友禅の黒地の帯、まことに粋な取り合わせ、私は、鴬色の羽二重の色紋付きに袴というちょっと仕舞でもしようかという出で立ちで出演した。といってもラジオだからその出で立ちは見えないのだけれど、同番組のHPに写真が掲載されたので、リスナーにも視覚的な情報が届く。とりどりに楽しいお話しを伺っただけでなく、例の『謹訳源氏』の生朗読では、檀さんに朧月夜の役で出演していただいたのは、じつに楽しかった。檀さんとお話ししているといつも思うことだが、人間、育ちの良さというものはほんとうに争われないもの、上品でまことに気持ちのいいお人柄には心底敬服。