2008年7月30日水曜日

アップル・クランブル

これはイギリスの代表的なスイートの一つ、リンゴのクランブルで
ある。これは、目下のところ低脂肪で作る方法はみつかっていない
ので、極めて高脂肪高カロリーなるものだから、ダイエット的には
お勧めしない。しかし、美味しいことはまたじつに美味しいので、
いわば私にとっては「見果てぬ夢」としてここに掲げたのである。
クランブルは、スコンと同じような材料で、小麦粉とバターと砂糖
と塩とベーキングパウダーを、よく混ぜて、指先でこなし、それを
ざくざくとおおまかにまとめてこねる程度で、そのままリンゴの上
に乗せて焼くというのがミソ。リンゴは前もって煮ておくことはな
く、生のまま小さく切って、そこに砂糖とシナモンをよく振り混
ぜ、その生のリンゴをキャセロールに入れて、上からクランブルの
生地ですっかり覆い、オーブンでじっくりと焼き込む。そうする
と、リンゴは蓋をされた状態で、自らの水分ですっかり煮えて蒸焼
状態になり、その水分がまた、クランブル生地と適宜交じりあって
なんともいえない風味となる。
食べるときは、ごらんのように、カスタードソースを掛けて食べる
のだが、ただしこのカスタードは、ほとんど甘味を入れないのがイ
ギリス式。たっぷりのミルクティとともに食べると、これがほっぺ
たのおちる旨さである。この場合、リンゴは、クッキングアップル
であることが望ましいが、日本ではあまり手に入らないので、せめ
て紅玉でつくってほしい。もし通常のフジなどで作るばあいには、
酸味を足す意味でレモン汁などをくわえるとよい。

2008年7月29日火曜日

美しくさりげなく

この建物は門司にある和幸運輸株式会社事務所というものである。明治43年に門司税関の保税倉庫として作られたものを、当時大総合商社であった鈴木商店という会社が買い取って民間に移管、今 は、この隣の関門製糖という会社の関連会社の事務棟として使われているらしい。この見事な石積みの護岸は、手前側にコの字形の防波堤を持つ小規模な港湾施設となっているものの一部分で、いまもなお製糖工場として運転されているレンガ造りの工場建築群と合わせて、まことに尊重すべき産業遺産。美しくまたさりげないところが味わいである。私は、日本中を歩き回って、こういう風景を捜してはコツコツと写真に撮ったりしているのである。

2008年7月28日月曜日

これも低カロリー

 この、いかにも高カロリー風のお菓子、実はほとんど脂肪分を含
まない、わが発明の低カロリー・ホット・デザート。ブレッド・プ
ディングの一種である。無脂肪乳に少しだけ砂糖を加え、狐色に
しっかりとトーストした食パンを四つ切りにして、十分にしみ込ま
せる。パンは驚くほど牛乳を吸ってしまうので、大量の無脂肪乳を
用意することが肝心である。そして、100%果汁のオレンジ
ジュースを、さっと手早く潜らせてから(この辺りは相当に手指の
技術を要するところ)、残りのオレンジジュースはまんべんなく上
から掛けてしまう。そうしておいて、写真のようにバットに並べ
る。この黒いものは赤ワインで煮て柔らかくした巨峰干し葡萄。そ
れを適宜蒔いて後、オーブンで十分に焼く。仕上げに粉砂糖で白く
飾るとできあがり。これがちょっとクレープシュゼットとブレッド
&カスタードの風味を思わせる、なかなかの味にできる。とても無
脂肪で作ったものとは思えないから、ぜひお試しを。こういうとこ
ろにまでよくよく気配りをしてメタボリックからの脱出を計られて
はいかがであろうか。

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2008年7月25日金曜日

すばらしい野菜

息子のお嫁さんのご実家は、新潟県糸魚川の農家で、お父さんは天
下一品の美味しくて安全なコシヒカリを作り、おばあちゃんは、こ
れまたすばらしい野菜作りの名人。この写真の堂々たる胡瓜は、そ
のおばあちゃん作の名品で、こんなに大きくても中の種はまるで口
には触らない。この全部が、つまり、みっしりと果肉なのだ。昨日
も、こういう手塩にかけた見事な野菜を沢山頂戴したのは、野菜ば
かり沢山食べる私どもには、なによりありがたかった。そこで、こ
の胡瓜を一本、薄く小口に切って胡瓜揉みにすると、夫婦二人には
多過ぎるくらいの量ができる。これが青臭くもなく、はりはりと
しっかりした歯ごたえがあり、あまつさえ、いささかの甘味さえ感
じられて、こんなに美味しい胡瓜は、東京のスーパーでは決して手
に入らない。しかも、なにしろ朝もぎの新鮮なところを急送してく
ださるから、その美味はなんとも言えぬ。きっと栄養も満点なるこ
とであろう。まことにありがたいことと感謝しつつ、これらの野菜
を、今朝も山のように食べたところである。

2008年7月21日月曜日

田園の美

熊本から帰ってくる日、熊本空港の近くで撮影した写真である。
もともと、私は日本の風景のもっとも美しいものは、稲田である、
と思っている。春の代掻きから、やがて田植え、青々と葉が伸び、
酷熱のなか穂に花が咲き、爽秋の空のもと黄金色に色づく。さら
に、刈った稲を野に掛けたり積んだりして干す(稲塚、稲村、はさ
がけ、棒かけ、等々地方によりスタイルにより色々な呼び方があ
る)秋景色。それから点々と刈り後の残る晩秋の田、やがて雪が降
り、また次の一年を待つ。そういうことが年々に循環して日本は美
しい四季を迎え送りしてきたのだ。この青田の豊かな風景を見よ。
こういう好風景の中に身を置くと、こころがしっくりと落ち着い
て、ああつくづく瑞穂の国に生まれてよかったと思うのである。

2008年7月20日日曜日

薩摩スチューデント

 昨年単行本として刊行した、長編歴史小説『薩摩スチューデン
ト、西へ』が、幸いに今年の夏休みの推薦図書に選ばれた。うれし
いことである。
 この小説は、光文社の小説宝石という雑誌に足掛け三年間連載し
たあと、同社から単行本になった。
 慶應元年、薩摩藩は極秘裏に15人の優秀な留学生と、四人の秘密外
交使節団を同行させてイギリスに送り込んだ。もし露見すれば外国
渡航などは死罪という時代である。そのなかで、若き薩摩隼人たち
が、次第に西洋文明に目覚め、やがてイギリス、アメリカで大切な
ことを学んで帰ってくる。明治政府の文教・外交政策の多くの部分
が、この薩摩スチューデントと呼ばれた若者たちに負うていること
は案外と知られていないが、厳然たる事実である。その細かな史実
を、前後六年の歳月をかけて調査し、イギリスで膨大な資料を蒐集
して書き上げた、史実に基づく歴史小説で、この夏休みの機会に、
ぜひとも若い人たちに読んでもらいたい。ああ、昔の青年たちは偉
かったなあ、日本人は素晴らしい民族だなあ、と元気が出てくるこ
とと思うのである。

ムツゴロウ

 熊本県立劇場で講演の翌日は、あまり天気が良くなかったけれ
ど、不知火海のほうを走り回った。以前このあたりを歩いたとき
に、広々とした干潟に、無数のムツゴロウの大群を目のあたりにし
て、言い知れぬ感動を覚えたことがある。あの風景にもう一度見参
したいものと思ったのだ。が、数年前に目睹したその風景のあたり
は、今新しくコンクリートの堤防が出来ていて容易に浜には近寄れ
ないようになっていた。しかし、その代わり、その直前鹿児島本線
松橋(まつばせ)駅の南東、大野川の川床の泥濘のなかに、たくさ
んのムツゴロウが元気に走り回っているのを発見。よくみるとシオ
マネキもいる。このあたりは不知火海が満潮になると海水が入り込
んでくるのであろう。干潟は生物の宝庫、生態系の教科書のような
ところである。どうかこういう生態系は、子々孫々の時代まで元気
な状態で残してほしいものだと思う。

2008年7月19日土曜日

珍味に遭遇

 熊本に講演にでかけた。
 今回は、『能を面白く見る方法』という演題で、御当地の新作能
『清正』への興味を盛り上げるための前座的講演であったけれど、
おかげさまで二百人ほどの人々が集まってくださった。反応のよい
きもちのよい講演会となった。終ってから、ケンブリッジにおける
旧知の英文学者Y先生(熊本在住)と四半世紀振りの再会を果た
し、市内の繁華街にある金寿司という店で御馳走になった。東京仕
込みのなかなか上乗の寿司だったけれど、そのとき、店主が「これ
はちょっと珍しいものですが」といって出してくれたのが、この写
真のアヤシイ品物であった。これが、コリコリして、ねっとりし
て、礒の香りがして、しかしいままで明らかに食べたことのないも
のだった。降参して教えてもらったところ、これはイソギンチャク
だとのこと。イソギンチャクも種類によってこのように美味しく食
べられるのだと、初めて知った。いくつになっても、新しい知見と
いうものはあり得るものである。

2008年7月14日月曜日

ピーターと狼

ちょっと面白い仕事をしてきた。
7月13日、浜松交響楽団の演奏会に招かれて、ちょっとした司
会と、それから、セルゲイ・プロコフィエフの『ピーターと狼』の
ナレーションを担当したのである。もちろん、こういう形でのオケ
との共演などは生まれて初めてで、おおいに面食らったが、それで
も、楽しい仕事になった。いちばんの問題点は、オケ譜というもの
は(多くの方はごらんになったことがないかと思うけれど)、現在
何と何が演奏しているのかということで、スコアの段数がまちまち
なことである。テュッティといって、全員総合奏のときは、二十段
もあるかと思えば、ソロになっているところはたったの一段であっ
たりする。同じ四小節でも、二十段だったり一段だったり、三段
だったり八段だったり、とページによってまちまちなので、いまど
こを演奏しているのかを目で追うのは、慣れないと難しい。そうい
うなかで、たとえば二小節のなかに、これだけのテキストをナレー
ションしなくてはいけない、とかいうことになると、こんどはその
時間内に納まるように、うまくテキストを調整して合わせるように
書いて行くという作業もあり、なかなか見ているほど簡単ではな
い。しかし、何度か合わせて、何度かテキストを調整して、ようや
く合うようになり、本番はほとんど破綻なくぴったりと納まったの
は、ちょっとした快感だった。なにごとも挑戦して努力みれば、そ
れだけの価値はあるものである。そしてなによりの御褒美は、聴衆
の拍手喝采、である。(写真は、同時演奏のショパン、ピアノ協奏
曲第一番のリハーサル風景。指揮者は鈴木恵里奈君、ピアノ独奏は
石井園子君)

幸福の木

友人から『幸福の木』というものの苗を貰って、最初は植木鉢で育
てていたのだが、だんだんと元気がなくなってきて、しまいに、枯れそうになった。
そこで、ためしに地面におろして、よく水をやり、さらに、台所の 生ゴミを加工した肥料なども遠くに蒔いておいたところ、すこぶる元気になり、この たび、この写真のように、妖艶というか、可憐というか、見事な花がたくさんに咲いた。
ところが、ふつう『幸福の木』というとドラセナ類を指すことが多 く、この常緑広葉樹(照葉樹)の正確な名前がわからない。もし御存じの方があれば、 ぜひご教示を願いたいと思っているところである。

2008年7月11日金曜日

ネジバナの約束

毎年、梅雨が明ける頃になると、私の家のバルコニーに放置した植
木鉢に、可憐なネジバナが花を咲かせる。一切水も肥料も何も与え
ないのに、これで真夏にはすっかり枯れて砂漠のようになりなが
ら、また毎年その季節が来ると、ちゃーんと約束どおり、芽を出
し、花芽を伸ばし、そして、この美しいピンクの花が咲く。小さく
て、繊細で、いったいこの花のどこに、こんな生命力が隠されてい
るのだろうかと、自然の力の偉大さに感動を覚えるのは、この季節
のこの花に、である。私のもっとも愛する花。