2008年11月30日日曜日


清泉女子大で

 きょうは五反田の清泉女子大へ『古典文学と私』という講演をし
に行ってきた。講演では、主に、私の国文学自分史的な話を交えな
がら、いくつかの古典を朗読したり解釈したりして聞いていただい
た。たくさんの聴講者がつめかけてくださって、盛大な講演会に
なったのは、うれしかった。清泉女子大は、旧島津公爵邸、江戸時
代はここは仙台の伊達藩の下屋敷だったところだそうである。この
コンドル設計の壮麗な西洋館は、さすが島津さんのお邸だなあと感
動をおぼえた。時あたかも、庭の木々の紅葉が盛りで、得も言われ
ぬ美しさであった。そして、こういう大学で勉強する学生たちは幸
せなことだと羨望をすら感じたことである。

2008年11月26日水曜日

またもや新刊

 さて、そろそろ風邪の神の横行する嫌な季節になった。とりわけ
て、昨今では、タミフルの効かないインフルエンザも出現し、さら
には新型の恐るべきウイルスの発生も危惧されている。そんなに怖
いインフルエンザでなくとも、普通の風邪だって、やっぱり罹れば
なにかと嫌なことばかりだ。特に高齢者ともなれば、風邪がもとで
肺炎になって命にかかわる場合だってなくはない。だから、どう
やって風邪をひかぬようにするかということは、いまや大問題だと
も思われる。そこで、かねてから風邪を予防することただならず、
まさに、粉骨砕身してきた私が、そのノウハウを大公開しようとい
う趣向である。まあ、医学的に根拠のあることから、まるっきりの
おまじないに至るまで、微に入り細を穿ち、筆は文学から哲学にま
で及ぶという、風邪文学の金字塔と自ら自負しているのであるが、
ははは。ちくま文庫のオリジナルで出したもので、ぜひ通勤の電車
のなかででも御一読賜わりたい。

2008年11月23日日曜日

晩秋の北九州

11月22日、北九州の苅田町へ講演に行ってきた。苅田まちづ
くりカレッジというものの名誉学長に任じられている関係で、毎年
春と秋に開講記念講演をしにいくのが例になっている。今回は、
『風姿花伝に読む人生の智慧』という主題で、一時間半ほど話して
きた。講演そのものは午前中に終ってしまうので、午後は、北九州
から筑豊あたりの野を逍遥しながら、晩秋の風情を楽しんできた。
この写真はこの度遭遇した野の景色である。むろん名所旧跡でも何
でもない。いわば、どこにでもあるような無名の風景だが、この山
かげにひっそりと肩を寄せているような瓦屋根の集積に無限のなつ
かしさが宿る。美しい景色だなあ、と思う。こういう静かな野の景
色を、私はこよなく愛するのである。そして、かかる人知れぬ美景
は、日本中津々浦々、それこそ到るところに、かそけくもいきづい
てるのである。どうだろう、旅にでてみたいと思わないか。

2008年11月18日火曜日

松山ぞなもし

きょう、愛媛大学の招きで、『美しい日本語のために』という講演
をしに松山の同大学まで行ってきた。愛大教授(国語学・言語学)
の清水史君とは、かつて東横短大で教鞭を執っていた時分の同僚
で、以来四半世紀以上も友誼を修しているところ。清水君に頼まれ
ては否ともいいがたく、はるばると松山まで行ってきたというわけ
である。講演の前に少し時間が余っていたので、市内の大黒屋とい
う店で名物のウドンに舌鼓を打った後、道後温泉にある伊佐爾波
(いざにわ)八幡宮という神社にお参りしてきた。なんでも寛文年
間の建築の由で、なるほど東照宮様式の壮麗な宮居であった。本殿
のぐるりに回廊が巡り、その回廊には、和算の設問と答えを書いた
「算額」というものがいくつも奉納されている。まことにアカデ
ミックで床しい雰囲気の神社で、またその表参道の階段上から見お
ろす市内の大景は素晴らしいものがあった。

2008年11月10日月曜日

旬菜膳語

岩波書店から『旬菜膳語』という本を出した。この本が出来るま
で、ずいぶん長い年月がかかっている。もともと、NHKのラジオ
深夜便という番組にレギュラーで出演を頼まれ、詩人の高橋睦郎さ
んと隔月に出て、その折々の旬の食材について、あれこれと所感を
話した。毎回一時間ほどの独り語りで、相当の準備が必要だった
が、それが二年で終って、あとに堆い資料の山が残った。これをそ
のままにしておいては勿体ないと思ったが、これを知った岩波の編
集者から、ぜひ本にしたいと申し出があった。それで『図書』とい
う雑誌に、これも二年間連載したのだが、その内容は放送とはまっ
たく違っている。文章にするとなると、また新しく調べを重ねて、
資料はますます膨大になった。その連載も終って、ようやくに一冊
の本になったが、単行本にするについて、さらに原資料の確認をや
り直して、神経衰弱になりそうな作業の末に、やっとこさ出来たの
がこの本である。大変ではあったけれど、半面、とても楽しい仕事
でもあった。今、食の危機が叫ばれているこの時代に、もう一度、
足もとの、この日本の食材に注目し、考え直してみるよすがとし
て、ご一覧いただければ幸いである。一人でも多くのかたのご高覧
をこいねがいつつ。

2008年11月9日日曜日

幼き日

この写真は、たぶん私が四つか、そのくらいの幼児だったころに撮
影されたものと思われる。右側にちょっと手だけが写っているの
は、母か、いや、手の年齢の感じからして母方の祖母かもしれな
い。当時、母の弟、つまり私の叔父は毎日新聞社のカメラマンだっ
たので、こういう写真を多く撮影して残してくれた。プロの写真だ
からたいてい良く撮れている。これは、おそらく、なにか字を教
わっているところのスナップであろうと思われる。私は、ごく幼い
頃から文字とか言葉とかに、とても興味のある子どもだったらし
い。それで、なにか字が書いてあれば、それは何という字かという
ことを聞かずにはいられなかった。電車に乗っていると、駅に停ま
る度に、その駅名の漢字を読んでは憶えていった。だから、私は小
学校に上がる頃には、ずいぶん漢字が読めたので、小学一年のとき
に、ひらがなから教わるということは、堪え難い退屈であった記憶
がある。いわゆる三つ子の魂というもので、今はその言葉をなりわ
いとするようになった。その代わり、数字にはてんで弱くて、計算
は不得意中の不得意。算数の応用問題なども、からっきり理解しな
かった。このあたりも三つ子の魂で、いまもって数字は年中間違える。

源氏朗読会

昨日8日は、横浜朝日カルチャーセンターの主催で、私の源氏
物語朗読会(会場、新横浜スペース・オルタ)であった。当初、来
聴者があまり集まらないというので、心配していたのだが、直前に
新聞が大きく告知してくれたこともあり、結果的には、ほぼ満席の
盛況となった。これは、私が現代語で書き直した源氏物語(雨夜の
品定め、夕顔の死、柏木と女三宮)を、永田砂知子さんの波紋音を
中心とするパーカッションとのコラボレーションの形で読むという
試みであったが、非常に面白い空気が出て楽しかった。場内も水を
打ったように静かに聴いては、ときどき、笑い声や、どよめきや、
いろいろな反応があってよかった。終ってから、横浜駅西口付近の
野田岩横浜店で打ち上げ。野田岩の鰻は初めて食べたが、たしかに
天然鰻であろうなぁ、これは、という食感と風味に、舌鼓をうっ
た。その姿だけちょっと写真でおすそわけ。

2008年11月4日火曜日

秋の田の

 秋の田は美しい。いや、田んぼはどこもみな美しいけれど、秋
の、良く実った田に、燦々と秋の陽光が注いでいる景色は、そこに
豊かな、めでたい気持ちが添うので、いっそうの美しさを感じる。
 この景色は、宮城県下川崎町のあたりの田園で、晴れ渡った空の
もと、まさに黄金の穂がいっぱいに実っていた。写真は、先月の仙
台クラシック・フェスティバルからの帰途に撮影したもの。もうあ
れからはや一月近く経ってしまって、今ごろはもう刈り株ばかりの
冬めいた景色になっているかもしれないが、この黄金の穂の揺れる
景色を、どうしてもここに出しておきたいと思ったので、すこしば
かり遅ればせだけれど、掲げることにした。こういう田が、国のあ
やまった減反政策やら、農村の疲弊、労働力の高齢化などの理由か
ら、どんどん荒廃に向かっていることを、私はなにより悲しく思
う。いや、悲しいなどという感情的なことではなくて、これは国の
根幹を揺るがしかねない一大事なのだ。農水省の無策愚策には、ほ
とほと愛想もこそも尽き果てる思いがする。

2008年11月3日月曜日

実相院コンサート

すっかり更新をさぼってしまいましたが、なにしろこのところはま
た殺人的な忙しさでした。そのさなか、京都の門跡寺として有名な
岩倉実相院で、田辺いづみさん、五味こずえさんとの歌のコンサー
トをしてきました。実相院が寄る年波でだいぶ傷んでいるので、そ
の修復支援のためのチャリティ・コンサートです。歌は、仙台で
歌った曲目と、大筋は同じでしたが、ちょっとまた工夫を重ねたと
ころもありました。まあ、なかなか本番は思い通りにはいかないも
ので、いくたの失敗もあり、自分としての反省はいろいろあります
が、それは今後の努力目標となります。すべてのことは前向きに考
えるようにしています。おかげさまで盛況の入りとなり、また聴衆
の皆様はとても温かくて、場内に善意のあふれているような、気持
ちの良い本番でした。御来聴のみなさま、そしておぜん立てをして
くださった実相院のみなさまに、またスポンサーになってくださっ
た三井ホームのみなさまに、深く感謝をいたします。