2016年12月19日月曜日
同窓会的・・・
きのう18日の午後、新宿の朝日カルチャーセンターで、『流露する人情、平家物語』と題した講演をしてきた。おかげさまで教室は満席で、補助イスが出たということであったが、みな和気靄々たる雰囲気のなか、私は講釈師よろしく合戦場やら、別れの愁嘆場やらの謹訳を朗読したり、平家物語の概説をしたり、できるだけ分かりやすくと心がけて話をしてきた。もうすこし若い人たちにも聞いて欲しいなあとは思うけれど、なかなか若い人にまではこの思いが伝わらないのは、歯がゆい思いがする。
この講座に、かつて慶應義塾女子高で教鞭を執っていた時分の教え子たちが集まってくれて、久しぶりの「リンボウの授業」を楽しんでくれた(彼女達は、リンボウ先生なんて敬称は付けやしないので、リンボウさんとか、リンボウと呼び捨てとか、まあそんなものであった)。みんなもう立派な「おとな」ではあるが、しかし、集まって話をすれば高校時代そのまま、心はいつまでも若いのである。この写真を撮ったあと、みんなでひさしぶりの同期会というか女子会というか、新宿の某料理屋で楽しい会食の一時を過ごした。教師冥利に尽きるというのは、こういう時である。
2016年12月13日火曜日
修道士スタイル
今年の師走はずいぶんと寒い。ラ・ニーニャの影響かもしれぬ。
しかし、仕事をするときは、部屋を温かくするのは、どうも好まぬ。だいいち眠くなるし、咽がからからになるからである。
大昔、受験時代には、真冬のさ中に窓を全開にして、凛冽たる冷気のなかで勉強していて、家人に嫌がられたものであったが、今も基本的にそういうスタイルは変らない。ただし、床暖房になってるので、足だけは温かい。
ところが首や肩が冷えると、それもこまるので、以前この日記に「勉強頭巾」というものを紹介したことがあったが、今は、さらにそれがパワーアップして、ご覧のような、むかしの修道士のような上着・・・というか、これは袖と頭巾のついたフリース毛布というべきものだが・・・を着て、ぬくぬくと勉強しているのである。
これはぜひ皆さんにもおすすめする。なにしろこれで暖房費が大幅に削減できるというものだから、エコそのものであるし。
2016年12月11日日曜日
加藤浩子さん著作
つい最近、平凡社から、三冊の本が贈られてきた。見れば、加藤浩子さんの音楽の本で、平凡社新書の三冊である。
加藤さんは、じつは私の慶應義塾女子高教師時代の教え子で、気鋭の音楽学者である。どうも「さん」づけはしっくりしないので、慶應義塾の伝統に従って「君」づけで書く事にしたい。加藤君は、慶應の大学・大学院と音楽学を修めた俊秀で、今は多く啓蒙的な仕事に携わっているらしいが、この三冊などは、そのもっとも良い意味に於ける、格好の啓蒙書である。私などは、若いころから日本のことしか研究してこなかったので、ヨーロッパの文化史についてはまことに疎い一人なのだが、そういう立場でこの三冊を読んでみると、ははあ、そうであったか、なるほどなるほど、と打ち頷かれることが多い。
解りやすく、面白く書かれているので、勉強するというよりは、楽しみながら多くのことを知り得たというところが、すこぶるめでたいのである。
とかく啓蒙書とはいっても、やたらと難しげな表現を使ったり、どうかすると衒学的なところが目立ったりする本も多いのだが、加藤君の著述は、すこしもそういうところがなく、それはもうほんとうに周到稠密に調査が行き届き、また実際の音楽への「愛」が充ち満ちていて、しかも文章が平易闊達、温かな読後感が得られる。
この三冊が平凡社から出たというところも良い。平凡社は、今も良心的な出版の態度を持している珍しい老舗出版社で、私も『イギリスはおいしい』『イギリスは愉快だ』『古今黄金譚』などを同社から刊行しただけでなく、名物雑誌の『太陽』にも、何度か特集の案内役として出た事がある。
はじめて同社から本を出したとき、担当編集者の山口さんは、「初めての本を平凡社から出したというのは、きっと後になって、よかったとお思いになりますよ」と言われたが、果たしてその通りになった。今も私は平凡社の一ファンでもある。
そういう著者としての良心と力量が、出版社としての良心と底力にマッチして、この三冊は音楽ことにオペラ好きの人には必須の「教養書」となった。ぜひご一読を。
2016年12月7日水曜日
冬じまい
きのう今日(5日・6日)の一泊二日で、信州信濃大町の山荘の冬じまいに行ってきた。やはりこれから年末にかけては、相当に雪も積るし、気温も、ぐんと冷え込む。それが信州のこの辺りの当たり前の冬なのだ。
それゆえ、わが山荘「翠風居」も、毎年この時期になると、冬じまいということになる。また来春の三月末ころに、山荘開きをするまで、この山荘はしずかな冬眠に入る。
行ってみると、もう木々の葉はすっかり落ち尽くし、地面は分厚い落葉の布団をかぶっていた。すこしでも風が吹くと、その落葉がカサコソと音を立てる。それまた一風情というところである。
さしも甚だしく出没していた熊も、この季節になると山へ帰って冬眠に入るので、いくらか安全になるが、最近は、山の餌が足りないせいか、温暖化の一現象か、わりあいに遅くまで熊が出没する傾向にある。困った事である。
今回は、熊には遭わなかったが、大きな猿の群がゆうゆうと庭先を通っていくのに出会った。
2016年11月23日水曜日
漱石と古典
きのうは、東京エフエム内にある、衛星放送局ミュージックバードまで、番組収録に行ってきた。番組の企画とお相手は、同局の名プロデューサで、『謹訳源氏物語』の全巻録音などのプロデュースをして下さった田中美登里さん。もう二十年来の付き合いで、いわば気心の知れた「相棒」というところである。写真左の赤いセーターを着ているのが、その田中プロデューサである。田中さんとは、以前、『リンボウ先生の音楽晩餐会』と『リンボウ先生の歌の翼に』という一連の音楽朗読番組を何年も御一緒したのである。
今回は、漱石没後100年、生誕150年という記念の番組で、十年前に私が全巻朗読してピア出版から出版したCDブック『夢十夜』を、完全放送してくださるというのが目玉であったが、同時に、「語る文学」として、『謹訳源氏物語』『謹訳平家物語』にも光を当てていただき、おおくの生朗読を交えて三時間の放送を収録してきたのである。漱石では、『吾輩は猫である』『坊ちゃん』『草枕』のなかから朗読をした。
この放送は、次のとおりである。
MUSICBIRD THE CLASSIC(121ch)
「ウィークエンド・スペシャル」
~リンボウ先生が読む『夢十夜』(『源氏』も『平家』も)
ゲスト:林望(作家、国文学者) 聞き手:田中美登里
ゲスト:林望(作家、国文学者) 聞き手:田中美登里
MUSICBIRDはTOKYO FMグループの高音質CS衛星デジタル音楽放送。
クラシック、ジャズなどジャンル別に多数のチャンネルがあり、
これを聴くには専用のチューナーとアンテナが必要。
お問合せは03-3221-9000
ぜひ、いちどお聞きいただきたく、ここに御案内申し上げる次第であります。
2016年11月21日月曜日
謹訳平家物語完結
申し遅れました。
すでに、十一月の頭に、かねて刊行中であった『謹訳平家物語』の最終第四巻が刊行となり、これにて、本作は完結となりました。
第四巻は、いよいよ大詰め、壇ノ浦で平家が滅亡し、その一族がみな滅ぼされるまでを描き、副次的に義経が頼朝に追われる身となる話もここに描かれます。
そうして、一番最後に『灌頂の巻』が置かれて、壇ノ浦で生き残った建礼門院が、大原野寂光院に隠棲して念仏三昧の寂しい暮しのなか、後白河法皇が突如訪ねてくる物語が、しみじみとかたられて、さしも長い物語もここに終焉を迎えます。物語全体のなかでも、格別に味わい深いのがこの第四巻に収められた巻十から十二、並びに灌頂の巻であります。
平家一族の亡魂への鎮魂の物語と言っても良い本作は、私が高校生の頃から愛読に愛読を重ね、心を込めて訳述したもので、ぜひぜひ、ぜひぜひ、多くの方々に読んでいただきたい、それも黙読ではなくて、音読で、しかも聴き手を前にしての朗読で読んでいただけると、もっともよく味わいがわかるだろうと思います。産経新聞の書評欄に、中島誠之助先生が、素晴らしい書評を書いてくださいましたし、また読売・毎日両新聞の書評欄にも著者インタビューが出たところです。合わせて御一読のほどお願いいたします。
またもと雑誌ミセスの編集長だった岡崎成美(おかざき・しげみ)君が、この作品についてのインタビュー動画(Ⅰ・Ⅱ)を作って、彼自身のフェイスブックにアップしてくれました。こちらもぜひ検索のうえ、ご一瞥くださいますと嬉しく存じます。
動画や書評は次のサイトでご覧下さい。
↓岡崎成美さんのフェイスブック
https://www.facebook.com/shigemi.okazaki.3?ref=br_rs
↓岡崎成美さんのツイッター(ツイッターでも、動画はご覧になれます)
https://twitter.com/mrsokazaki
↓産経ニュース 〔書評倶楽部〕 中島誠之助さん書評
http://www.sankei.com/life/news/161119/lif1611190028-n1.html
↓毎日新聞 「今週の本棚」
http://mainichi.jp/articles/20161120/ddm/015/070/030000c
金沢のコンサート
錦秋もそろそろ終わりになり、山々はすっかり冬化粧になりました。
さるなか、昨日十一月二十日は、シェア金沢という福祉施設内のライブハウスMOCKにて、北山吉明先生とのデュエット「Duo Dottorale」のコンサートをやってきました。今回は『母の教へ給ひし歌』というテーマで、懐かしい叙情歌や昔流行ったドイツリートの名曲、あるいは子守歌などを北山ドクターと二人で14曲ほど熱唱してきました。この演奏会は、歌が大好きな北山ドクターの御母堂のために、私どもが懐かしい歌を歌って愉しんでいただく、という企画で、ご高齢の御母堂も来られて最前列で聴いておられました。私の母はすでに亡くなりましたが、母も歌が大好きであったので、きっときのうはどこかに来ていたように思います。プログラムは、
里の秋
蛙の笛
野菊
みかんの花さく丘
故郷を離るる歌 *
浜辺の歌
仰げば尊し
琵琶湖周航の歌
鱒 ◎
歌の翼に *
アイルランドの子守歌(英語) ◎
モーツァルトの子守歌
そして、アンコールに
朧月夜
憧れのハワイ航路
の二曲。*は北山ドクター独唱、◎は私の独唱。あとはすべてデュエットでした。
なかでも、『仰げば尊し』は、新進気鋭の作曲家深見麻悠子君に嘱して私どものために新編曲してもらった男声デュエット版の初演となりました。美しい編曲で、この曲では、涙が出たという人もあったそうです。また、「鱒」「歌の翼に」の二曲は、私の訳詩の日本語版で。この訳詩版は、音楽之友社の高校音楽教科書のために私が作った訳詩で、今も高校の音楽で歌われています。いずれも原詩に忠実に、分かりやすい現代語の訳詩となっています。また「野菊」「朧月夜」は我が敬愛する作曲家上田真樹君の編曲男声二重唱譜により、「琵琶湖周航の歌」は青島広志編曲版によって歌いました。企画と司会(解説)は私が担当し、ピアノ伴奏は五味こずえ君でありました。
コンサート終了後は直ちに帰途につき、7時間半、夜の信濃路を運転して駆け戻ってきました。良い一日でした。
登録:
投稿 (Atom)