2019年10月16日水曜日

江戸時代の銀杏


 商売柄、古い書物を常に手にしているのだが、ここに掲げたのは、『正聲集』という唐詩のアンソロジーで荻生徂徠の編述にかかる一冊。それも、舘柳湾(たち・りゅうわん)という江戸中期から後期にかけて活躍した文人の旧蔵書である。おそらく、これは柳湾の自筆の写本であろうと思われる。
 そういう本をいじっていると、ときに、ごらんのように、茶色くなった古い銀杏の葉がはらっと落ちてくることがある。
 これは、ほぼ銀杏の葉に限られるのだが、どうも虫よけというような効果が想定されていたように思われる。いずれにしても、こういうものを発見すると、二百年あまり昔に、この本を書き写し、また愛読していた先人の存在がそこはかとなく感じられて、とても懐かしい思いがする。すると、この銀杏も、もしかすると・・・というかかなりの確率で・・・柳湾の手によってここに差し挟まれたものと想像されるので、なつかしさも一入である。