2016年7月8日金曜日

白馬へ

一週間ほど前から、例によって信濃大町の山荘に隠棲中である。今回は、なんとしても『謹訳平家物語』を最後まで書いてしまわなくてはならぬ、と悲壮なる覚悟で、酷暑の東京を逃げ出し、山のような本を持参して、こちらに篭居しているのである。
 さるなかにも、昨日からは、アメリカ在住の息子の娘たち・・・つまり孫娘どもが二人だけでこの山荘に「お泊まり」に来ている。東京は異常な酷暑なので、ちょうどいいときにこの涼しい山峡の里に来たものだと思う。
 しかしながら、ただでさえ小さな家に、二人の「賓客」を迎えるとなると、なかなかたいへんで、庵主の私だけが超然として執筆に励むというわけにもいかず、実質的には、一日じゅうこの孫たちの世話や家事に明け暮れる始末である。
 さるなかにも、きょうは白馬村へ遠足にでかけた。行ったのは、白馬ガラス工房というところで、いわゆる蜻蛉玉と呼ばれるガラス玉を使って、手作りのアクセサリーを拵えるという、まあ女の子の好きそうな趣向を求めて出かけたのである。
 行ってみると、白馬村は、どうしてどうして堂々たる高原リゾートになっていて、長野県では軽井沢と並んで見事なランドスケープデザインが施されている。ホテルやペンションもよいデザインのものが櫛比して、まるでヨーロッパに迷い込んだような印象であった。近くに避暑に来ていて、白馬がここまで美しくでき上がっていることを知らずにいたのはまことに不覚であった。
 写真は、そのなかでもなかなか出色のホテル、「ラ・ネージュ本館」で、八方の麓、和田野の森というところにある。じっさい、堂々たるイギリス風の建築で、いわばヴィクトリア時代からエドワード時代に流行した擬古的デザインである。残念だったのは、ここまでイギリス風に作っていながら、ちょうど午後三時であったにもかかわらず、「アフタヌーン・ティ」のようなサービスを全くしていないという、この一点であった。これだけのロケーションがあるのだから、ぜひティのサービスをするとよい、と強く経営者に勧めたいと思ったところである。
 この森あたりは標高が千メートルくらいあるのであろう。ごく冷涼で、じつに気持ちのよい気温であった。また、来るべし。

2016年6月23日木曜日

タンゴの時代東京公演

きょう、6月22日は、東京紀尾井町の、紀尾井町サロンホールで、『タンゴの時代』東京公演を開催。
 これは先月金沢で催したコンサートと、ほぼ同じ内容(一部変更)の、楽しいタンゴの展覧会式演奏会でした。
 幸いに、今回は、私の声帯の調子もよろしく、思うように歌えたので、終った後の気分も最高でした。
 終了後、打ち上げをにぎやかにやって、ついさきほど帰宅。
 これから寝るところです。
 この充実した実り多い一日を、天に感謝しつつ。
 ああ、楽しかった。
 写真、左から、中田佳珠さん(P)、五味こずえさん(P)、私(B)、北山ドクター(T)、力石ひとみさん(BN)、演奏終了後の記念写真。なんだか楽しかった空気が写っている感じがしますね。

 また次は、さあ、なにをやろうかなあ・・・じつはもう次も決まっていますが。
 乞う御期待。


2016年6月14日火曜日

ねじばな

ことしも我が鍾愛するネジバナが咲いた。
 この花の面白いことは、おどろくべき生命力である。一つ一つの花を見ると、まるでグラジオラスのような姿で、色も可憐そのもの、過度に自己主張しないその控えめな花の姿といい、約束通り毎年咲きいでる律義さといい、なんともいえず好ましい花である。
 毎年、初夏の季節になるころ、カラカラに乾燥していたハンギングの鉢に、ボヤッとした感じでこの草は芽を出す。宿根草なので、その古い根から毎年新しい芽がでてくるのだ。これが二三度の雨に当たって、ぐんぐん、ぐんぐんと伸びてくると、まもなくこういうふうにピンクの可憐な花を咲かせる。下から順に咲いていって頂点まで咲き切ると、あとは枯れるばかりである。真夏の炎天になるころには、すっかり茶色く枯れて、この鉢はまたもとの荒涼たる枯野の風情に帰る。そうして、猛暑炎天の日々を、ひたすら乾燥と熱暑に耐えて生き抜き(まるで砂漠のサボテンもかくやという生命力の強さである)、もしや枯れてしまったかなあと危ぶんでいると、また明くる年の初夏に、同じように芽が出てくる。
 ことしはまた、例年になく花茎がたくさん立った。最初に生えたときは、ほんの二三本であったのが、今年は二十本近くも咲いた。
 なにしろ、この鉢は、ただここに懸けてあるだけで、水も肥料も一切与えたことがない。そういう過酷な環境でも、律義に花を咲かせてくれるネジバナ。ああ、人生もかくあるべしと教えているようではないか。

2016年6月6日月曜日

滴翠園コンサート



大分県日田市鶴河内の旧家井上家滴翠園の穀蔵ホールでの演奏会は、無事、盛況裏に終了した。同家の築百年を記念しての演奏会で、『いまむかし歌の教室』と題して、テノールの勝又晃君と二人、男声デュエット「デュオ・アミーチ」として、なつかしい唱歌や歌謡曲の数々を歌い、また、それぞれの独唱で、勝又君はよく知られたテノールの名歌曲『カタリー』『エストレリータ』それに『帰れソレントへ』を、天にも響けとばかり、朗々と輝かしい声で歌い、私は、ガルデルのタンゴ『こいつぁだめさ』、アイルランド民謡『the Rose of Tralee』、小林秀雄『落葉松』、高田三郎『くちなし』を、しんみりと歌ってみっちり二時間の演奏会となった。
 写真は、本番に先立って、三日の夜におこなったリハーサルの風景である。
 当日はあいにくの大雨で、邸内はぬかるみ、足下が悪い状態であったけれど、お客様は続々と詰めかけてこられ、ホール内は人であふれ返って超満員となった。
 唱歌や歌謡曲などは、お客様がたのなかにも、いっしょに口ずさまれる人が多く、非常に熱気あふれる演奏会の空気は、ちょっと経験しない楽しさであった。
 十七年前の同ホールこけら落としの時もそうであったが、リハーサルと本番と、それぞれ終ったあとには、お心尽くしの手料理で、盛大にもてなされ、その美味、その豪華、言うべき言葉を知らぬくらいの御馳走で、これには、まったく感動また感動、胃袋が三つくらいは欲しいなあと思ったことであった。写真は、地元の川で釣られた天然鮎の焼き物、やはり鮎は川魚の王者というべく、まことに結構な風味であった。
 コンサートは四日の夜であったので、同日の昼間、しばし日田市内豆田町の古く美しい町並みを見物にいった。以前に来たときも、また別の取材で訪れたときも、豆田町は探訪したが、いっそう清潔に整備されたようで、まるで映画のセットのようであった。
 本番は、地元のケーブルテレビが二台のカメラを据えて撮影収録し、また大分日々新聞も取材に見えた。地元ではそうとうに大きなイベントとなったことであろうと思われる。井上邸は、生きた文化財、その見事な建築技巧と意匠には、つくづく脱帽である。
 季節がら、夜は蛍の明滅を眺めたのも、また珍しく楽しいことであった。

2016年5月26日木曜日

謹訳平家物語第三巻

ちょっとお知らせするのが遅くなりまして恐縮ながら、現在刊行中の『謹訳平家物語』の第三巻がリリースとなりました。
 この第三巻は、いよいよ平家が滅亡にむかって、坂道を転げ落ちていく「滅びの章」ともいうべく、全体に悲壮感ただよう名場面が目白押しです。
 都落ちの哀話、義仲の沙汰、義経の出陣、一の谷の合戦、そのほか、各地で転戦しながら、しだいに衰微していく平家のありさまが、じつにすばらしい表現で書かれています。私などは訳しながら落涙したくらいの名場面が、いくつもありました。ぜひぜひ、皆さま書店で手に取ってご覧下さい。そしてお求めになって、折々に朗読してみてください。あるいは朗読会などをなさっている方は、ぜひこの一冊を朗読テキストとしてお取り上げください。日本古典のなかでも出色の面白さを、ぜひぜひ感じ取っていただきたいのです。またこの作品は、『源氏物語』などとはことなり、高校生くらいでも充分に理解し味わうことのできるものなので、とくに若いかたがたにご一読をお願いします。
 なお本書については、さきごろ毎日新聞に著者インタビューが掲載されたので、下記のサイトでご参照ください。
 http://mainichi.jp/articles/20160517/dde/018/040/036000c
 また、『赤旗』日曜版5月29日の紙面にも、大きなインタビュー記事が掲載されますので、ご覧いただけますと幸いです。

2016年5月22日日曜日

あんこまパン

さて、金沢のコンサートを無事終えて、次は日田市鶴河内にある、井上邸滴翠園ホールでの「井上邸壱世紀記念コンサート」である。今回は、懐かしい叙情歌の二重唱が中心で、お相方は、テノールの勝又晃君。伴奏は、いつものとおり五味こずえ君である。
 そこで、その最後のリハを20日におこなった。まあまあ、声の調子もよろしく、勝又君とのデュエット「デュオ・アミーチ」はもうずいぶん経験を積んだことでもあり、たのしく合わせることができた。独唱曲もたのしく歌い通す事ができたのは、一つの収穫であった。
 リハに先立って、私の手料理で「まかない」を供したが、今回は、サンドウィッチでの軽食とした。手前の石皿には、ポテトとキューカンバーの、真ん中の印版の皿にはスクランブルエッグ、ツナとフライドオニオンの、それぞれサンドウィッチがのせてある。キューカンバーは加賀の太胡瓜を用いてイギリス風に仕立てた。そうしていま勝又君と私が手にしているのが、本家本元『あんこまパン』である。考えてみると、歌では何度も歌ったけれど、彼らにこの「あんこまパン」を御馳走するのは、これが最初であった。幸いに、二人とも、おいしいおいしいと言って平らげてくださったのは、まことにありがたいことである。この「あんこまパン」の作りかたについては、拙著CDブック『あんこまパン』をご参照願いたい。

2016年5月21日土曜日

金沢コンサート

去る5月18日、金沢アートホールでの、林ー北山組(デュオ・ドットラーレ)のコンサート『タンゴの時代』を無事終了した。この写真は、当日のリハーサルでの一コマで、男二人の間に立って歌っているのはピアニストの中田佳珠さん。アンコールの『夏は来ぬ』を歌うに際して、この際、ソプラノとして歌い手に加わっていただいたのである。中田さんは金沢大学付属高校の音楽の先生でもあるので、さすがに堂々たる美声で大いに花を添えてくださった。ピアニストは五味こずえさん、バンドネオンは力石ひとみさん。
タンゴの時代、というテーマだからというので、今回は、敢てタキシードでなくて、もうすこしラテン的なものをめざし、ご覧のような格好で歌った。われながら、すこ〜〜しキザであるが、まあ、タンゴだからこのくらいキザでもよろしかろうと思っているところである。しかるに、肝心の歌は、なかなか思うようにもいかなかったのが、切歯扼腕であったが、いずれ次回は捲土重来を期したいと、そう思っているところである。
          
すべてのプログラムが終って、フォワイエで記念撮影。左から中田佳珠さん、力石ひとみさん、私、北山ドクター、そして五味こずえさん。おかげさまで、場内は超満員という嬉しい悲鳴となった。
 さあ、いよいよ次は紀尾井町サロンでの東京公演である。こんどこそ、失敗しないようにがんばって歌いたいとひそかに期するところがある。