2018年10月22日月曜日

アップル・クランブル



 わがオフィスでは、毎日三時になると、イギリス的風習に随って、私ども夫婦と秘書の井上君と三人でお茶をすることになっている。このお茶のときに、たとえばスコンのようなイギリスのスイーツを作って食べることが多い。同時にそれは、井上君に簡単でおいしいイギリス菓子の作り方を、家元直々に伝授するという機会でもある。
 きのう、伊那の新井農園から、低農薬で完熟したすばらしい紅玉リンゴが届いた。これは教え子のK君が毎年送ってくれるのである。これがまた、酸味と甘味と果肉のテクスチャーと香りと色と、すべてがよくバランスした大振りで見事な逸品である。
 そこで、この紅玉を使って、きょうは「アップル・クランブル」を作ることにした。
 クランブルを作る方法は簡単で、マグ一杯の小麦粉と同じく半分の砂糖とを混ぜ、そこにバターを100gほど、これはまた例のとおり、指先でよく粉のなかに粉砕してこなしこむ(rub in)。きょうはそこに、砕いたナッツ類を味わいとして混ぜこみ、リンゴは生のまま小さく切って、砂糖とシナモンを加えて耐熱容器に盛り、その上から、上記のクランブル生地をざっくりと掛けて蔽い、180度に熱したオーブンで、きょうは約一時間焼いてみた。リンゴが生で使ってあるので、焼くのには時間がかかる。一時間のうちの前半は全体をホイルで蔽って焼くのである。
 リンゴがグツグツと煮えてきて、上のクランブル地がざくざくと割れたようになってきたら出来上がり。ほんとはこれにカスタードソース(ただし、甘くないもの)を掛けて食べるのが本場風だが、きょうは何も掛けず、そのまま食べた。充分においしかった。

2018年9月11日火曜日

命短し、恋せよオヤヂ




 大変お待たせいたしました。
 今年もまた、秋恒例、世界の声楽界を揺るがす大演奏会、デュオ・ドットラーレの定期コンサートの季節が迫ってまいりました。
 やっとそのチラシが出来上がってきましたので、ここもとご披露申し上げます。このチラシは、私の娘の春菜がデザインをいたしました。
 今回のテーマは、かっかっか、『命短し、恋せよオヤヂ』と題して、色恋ソングばかりを集めた第一部に、第二部は去年初演を致しました『旅のソネット』の二重唱版をご披露いたします。これは、先日、5月30日に、金沢の九谷焼美術館でのドットラーレ公演にて初演いたしましたもの。ここに更に習熟練習を重ねまして再演致すことになりました。
 チラシには紙幅の関係で、全部の曲目を掲載しておりませんが、このほかにまだ数曲の演奏を予定しております。パーセルから加山雄三まで、歌謡曲からイタリア歌曲まで、この縦横無尽なる曲目構成こそ、本職の声楽家諸君には思いも寄らないところかと愚考いたしますが、ま、大いに歌わせていただこう、そして大いに笑っていただこう、とさように心がけての珍しい演奏会でございます。
 例年、チケットはあっという間に完売になってしまいますので(なにしろ80席しかございませぬゆえ)どうぞできるだけお早く、林望事務所なり、北山クリニックなりにお申し込みくださいませ。

2018年8月27日月曜日

ひさしぶりのスコン



 いやあ、この狂乱的酷暑の夏、皆様いかがお過ごしでしょうか。
 私はしばらく信州に隠遁しておりましたが、おりしも、奥歯がダメになって、それを抜歯するために東京に戻ってきたところ、この猛烈な暑さで、もうすっかり骨抜きの毎日です。とても頭脳労働のできる気温ではなくて・・・といって冷房のなかにいると、喘息の具合が悪くなるし、声がかすれてくるしで、前門の虎後門の狼とはこれなるべし。
 そんな塩梅で、ブログの更新をすっかり怠っておりましたが、どうぞお許し下さい。
 さて、きょうは、ちと来客があり、その客が、イギリス好きの方とあって、ひさしぶりに正調ヴィクトリア時代風のスコンを焼いてもてなしました。時間が午後三時でしたから、アフタヌーン・ティになぞらえて、キューカンバー・サンドウィッチも作り、しばしイギリスの午後を思い出したというわけです。
 写真は、そのスコンをオーブンから出したところのありさまです。このように、ぴったりとひっつけて焼くのが一つのコツです。そうするとスコンがかさかさにならず、表面はカリッと、しかし中はシットリ、というふうに焼き上がります。
 くわしい作り方は、拙著『イギリスはおいしい』の文庫本(文春文庫)の後書きに出しておいたレセピをご参照ください。単行本の本文に出したスコンは、ちょっと変則で、作りにくいこともありますが、この文庫本のレセピは簡単で失敗なく、しかもほんとうにイギリス風の床しい風味にできあがります。世の中のいい加減な料理本やらイギリスかぶれの本などに出ているのでなくて、これこそが正調のスコンであります。なお、いつも口をすっぱくして言っているように、この菓子は「scone」と綴りますが、イギリス式の発音では「スコン」と短く言い、「スコーン」と延ばしません。というか、延ばさずに発音すると、いかにもネイティヴらしい、洒落た感じに聞こえるというわけです。老婆心まで。


2018年6月27日水曜日

小金井市歌録音


 きのう、六月二十六日は、異常に蒸し暑い真夏日になった。
 その暑さのなか、学芸大学内、学芸の森芸術館ホールにおいて、このたび制作中の『小金井市歌』と愛唱歌『夢見る町』の録音セッションが行われた。
 市歌の独唱は、田代和久さん、愛唱歌の独唱は、鳥木弥生さん、合唱は東京学芸大学音楽科専攻の学生合唱団(横山和彦教授・陣内俊生先生指揮)、そしてすべてのピアノ伴奏は、田代先生の奥様堀越夕子さんにお願いした。
 市歌は、私の作詩に、信長貴富さんの作曲で、これがまた、じつに美しい曲で、一箇の歌曲として舞台でも歌いたくなるような豊かな曲になったのは、ほんとうに嬉しい限りである。それをまた田代さんが、深々とした美声で、表現豊かに歌って下さったのは感銘深いものがあった。愛唱歌は、これも私の作詩に、新進女性作曲家の深見麻悠子さんが作曲、愛らしくメロディアスな歌曲になった。こちらの歌は、市民合唱団などの合唱などにもっとも適する楽想かと思われる。独唱はオペラで御活躍の鳥木弥生さんにお願いした。
 写真は、信長さんと私が、それぞれ音楽と詩の立場から、合唱へのアドバイスなどをしているところである。

2018年6月23日土曜日

ラグビー少年たち


 きのうは、かつて都立戸山高校で、ラグビー部生活をともにした仲間たちが、久しぶりに集まった。私たちと同期、一年下、二年下の三学年合同のOB会だった。私はかねて、たばこの煙のあるところには行かない、酒を飲むところには行かないと宣言して、このOB会も欠席していたのだが、それなら、昼間に酒もタバコもないところで茶話会の趣向でやるから来いと、そこまで言ってくれては行かないわけにはいかぬ、というわけで、赤坂の「のら犬」というサロンまではるばる出かけていった。
 なかには高校卒業以来はじめて会ったという人もいて、なつかしかった。ただ、この時分の戸山高校ラグビー部には、女子マネージャーなんていう洒落た存在はなかったので、ごらんのように男ばかり。もうみんな古稀も間近なる年とあって、どこからみても爺さんばかり、爺さんの品評会といった趣であったのは是非もないが、それでも談論風発、心ははるかな高校時代に戻っていくのであった。
 ラグビーのようなチームでやるスポーツの仲間は、また格別なものがあって、はるかな少年時代に、ともに苦しみ、ともに歓びを分かち合った、そのことは人生の大きな宝物となっているのである。
 さるなかにも、すでに同学年で二人、一年下で二人が、鬼籍に入ってしまったのは、無常の世の理りながら、寂しいことであった。
 されば、みんな、せいぜい健康に気をつけて、元気でやろうや!

2018年6月4日月曜日

旅ゆけば味わい深し



 こたび、このブログ『写真日記』のなかから、旅と食をテーマとする項目をまとめて、一冊の本にした。
 『旅ゆけば味わい深し』
 というのがその題名である。産業編集センターという出版社から、「わたしの旅ブックス」というシリーズの一冊としてリリースされたのである。
 このブログの写真は、全部カラーで収載されているので、なかなかきれいな本に仕上がっている。ブログの愛読者の皆様は、すでに読まれたものではあるけれど、こうやって一冊の本になってみると、ブログの記事とはまた違った風情があって、楽しめるかもしれない。まずは刊行のご案内まで。

2018年6月3日日曜日

かまぼこメンチ


 
 去る5月30日、加賀市の九谷焼美術館でデュオ・ドットラーレの演奏会をしたあと、私はまた北陸道で糸魚川まで戻り、そこからは国道148号で小谷の山越え道を取り、信濃大町へ抜けて、さらに安曇野インターからは中央道に乗って、無事東京に帰ってきた。
 その途中、糸魚川で、ふとこの「かまぼこメンチ」と大きな看板を出している店に遭遇して、「なに? かまぼこメンチ・・・?」と俄然興味を引かれたのであった。さっそくその店に入っていくと、コロッケなども、その場で揚げて熱々のやつを売ってくれるという。これは昭和の子としては、必修科目のようなものゆえ、もちろん買い求めてハフハフ言いながら食べたが、それも結構なるコロッケであった。
 けれども、この「かまぼこメンチ」は、その場では食べないで、揚げて冷凍になっているお土産用のパックを買って帰ることにした。
 「どこまでお帰りですか」と聞かれて「東京まで」と答えたら、お店の人が大変親切にしっかりしたスチロールの箱に入れて、なかに大きなアイスパックなどもサービスで詰めてくれて、東京まで事無く持ち帰ってきた。さっそく食べてみたところ、材料はタラなどの魚肉と挽肉とタマネギなどが混ぜてあるのだが、魚臭いことはなく、まことに上品な甘みがあって、よい味にしあげてある。ああ、これは良い、そう思って、これからお土産などに買ってゆくことにしようと思った。これは、糸魚川の「一印かまぼこ屋」という幕末創業の老舗の出店で、この分なら、その本筋のかまぼこもきっと美味しいだろうと想像される。次回は、その本店のほうにも出向いて、かまぼこと、かまぼこメンチと、両方買ってみることにしよう。