岩波書店から『旬菜膳語』という本を出した。この本が出来るま
で、ずいぶん長い年月がかかっている。もともと、NHKのラジオ
深夜便という番組にレギュラーで出演を頼まれ、詩人の高橋睦郎さ
んと隔月に出て、その折々の旬の食材について、あれこれと所感を
話した。毎回一時間ほどの独り語りで、相当の準備が必要だった
が、それが二年で終って、あとに堆い資料の山が残った。これをそ
のままにしておいては勿体ないと思ったが、これを知った岩波の編
集者から、ぜひ本にしたいと申し出があった。それで『図書』とい
う雑誌に、これも二年間連載したのだが、その内容は放送とはまっ
たく違っている。文章にするとなると、また新しく調べを重ねて、
資料はますます膨大になった。その連載も終って、ようやくに一冊
の本になったが、単行本にするについて、さらに原資料の確認をや
り直して、神経衰弱になりそうな作業の末に、やっとこさ出来たの
がこの本である。大変ではあったけれど、半面、とても楽しい仕事
でもあった。今、食の危機が叫ばれているこの時代に、もう一度、
足もとの、この日本の食材に注目し、考え直してみるよすがとし
て、ご一覧いただければ幸いである。一人でも多くのかたのご高覧
をこいねがいつつ。