2008年8月11日月曜日

ブルーベリー

 知人に青梅の山持ちがいて、その山でたくさんのブルーベリーが
採れるそうである。それで、つみたての新鮮なブルーベリーを山の
ように頂戴した。友とするによきもの、ものくるる友、と兼好法師
も言っているとおりだ。私は、その実をさっそく甘いコンポートに
作った。作るときに、三温糖と、少しばかりフランス国シャトー・
ナニガシの赤ワインを加えた。この赤ワインも、誰かから贈られた
ものだが、なにしろ私の家は誰も酒を飲まないので、どんな高級ワ
インでも猫に小判。あえなく料理用として使われてしまうという結
果になる。それでもまあ、ブルーベリー・コンポートになったの
は、多少フランスワインらしい用途であったかもしれないから、以
て瞑すべしというところか。で、これを瓶詰めにして、よく冷や
し、プレーンヨーグルトに和して食べると、まことにけっこうなる
デザートになる。うむ、目にうつくしく、鼻に芳しく、そして口に
おいしい。なお目の養生になり、ヨーグルトは腸の薬と心得て、
さっさといただいた。医食同源、善哉善哉!

2008年8月9日土曜日

枕草子

 
 しばらく前から、『小説NON』(祥伝社)という小説雑誌に、
「リンボウ先生の枕草子うふふレクチャー」という連載を書いてい
る。もともとは近世文学と書誌学文献学の専攻で、平安時代文学に
ついては門外漢だったのだが、その後、近世の小説などはどうもつ
まらない、ということを強く感じるようになり、それと同時に『源
氏物語』や『枕草子』に強く惹かれるようになった。やはり、文学
としては、こちらのほうが一流の高みにあるということは動かな
い。それで、以前も、東横学園短大で、近世文学を教えることにウ
ンザリして、「近世文学演習」という授業の枠のなかで、北村季吟
の『源氏物語湖月抄』を講読したことがあった。近世の学者がどう
源氏と向きあったか、ということを建前として、要するに『源氏物
語』のほうがはるかに面白いということを学生にも教えたくなった
のだ。この写真は、家蔵の『枕草子春曙抄』江戸前期の刊本である
が、これまた碩学北村季吟の注釈書である。季吟は、主要な古典文
学のあれこれに、こういう頭注傍注をつけた注釈書を著したが、そ
れは今日でも古典研究には必須の大業績である。昔の俳人というも
のは、いまの大学教授を十人あわせたくらいの素晴らしい学識を身
に付けていたのである。それにしても、『枕草子』という作品の面
白さ。なんだか、世間では源氏千年紀なんてことばかりが持て囃さ
れているなかで、源氏と同時代の『枕草子』も、日々勉強するほど
に、その面白さと凄さが身にしみてくる。それゆえ、ぜひこの『小
説NON』の連載をお読み頂きたいと切望するのである。

2008年8月6日水曜日

ソルトアイス

 じつは何を隠そう、私は大のアイスクリーム好きである。昔は
もっとたくさん食べたが、超低脂肪食の生活になってから、ほんら
い高脂肪高カロリー高糖分のアイスクリームは食べ過ぎると毒だか
ら、ごく控えめにしているところである。とはいえ、どうしても本
来好きなものはしかたがない。先だって、熊本に出かけたとき、そ
の城下、古町において、ソルトファームという店の前に「塩アイス
あります」という看板がでていた。むむっ、塩アイス! これは素
通りできぬ、とついつい立ちよって一食したところ、これがばかに
美味い。即座に東京まで送ってくれるように注文したのだった。沖
縄の和三盆と天草の天日古代塩の配合というものだが、なんとして
も不思議なほど奥行きのある美味である。12個注文したのは、瞬く間
に食べて、つい昨日、最後の一個を食べ終ってしまった。ああ、ま
た食べたいなあ。

2008年8月5日火曜日

六本木ヒルズ

 つい先頃、老父が92歳の誕生日を迎えた。
 そこで、私どもと、息子夫婦も交えて、お祝いの一席を設けたの
だが、ちと子細あって六本木ヒルズの51階という空の上で懐石料理を
食べた。六本木ヒルズなどというところへは一向に足も踏み入れな
いのだが、たまさか行ってみると、内部構造の複雑怪奇、方向感覚
がマヒすることこの上なく、まあ、あまり愉快な建物ではない。た
だし、その料理はなかなか丁寧に作ってあって、それなりに美味し
かった。窓から見ると、東京の夕景が一望できて、この写真には
写っていないが、すこし右に東京タワー、さらにもうすこし右には
レインボウ・ブリッジも見える。六本木というところは、こんなに
も海に近いのかと、いささかならず驚かされる。そうして、暮れな
ずむ東京の風景を眺めていると、ああなんと美しい町だろうかとい
う感が深い。私は東京っ子なので、やっぱりこの東京の風景には愛
着がなみなみならずある。ただし、こういう高層ビルに住みたいか
と聞かれたら、言下に答えよう。それはぜひともご免を蒙りたい、
と。これはたまさか行くのは良いとして、決して人の住むところで
はないと思った。

2008年8月3日日曜日

小金井薪能『黄金桜』


この8月17日(日)に、都立小金井公園において、第三十回の小金井薪能が開催される。津村禮次郎師と私が、三十年余の昔に、この小金井公園の夜桜(当時は、夜は森閑と鎮まってひと気なく、よい眺めであった)の下を散策しながら、こういう桜花月影のもとで薪能をやったら素晴らしいでしょうね、と語りあったのが、そもそもの始まりであったことを思うと、それから三十年という月日を重ねてきたこと、万感の思いがある。その三十回を記念して、今年は、はじめて新作の能を出すことになった。そこで私が詞章を創作し、津村師が付曲して『黄金桜』という曲を作った。夜桜のもとの空想から始まったことを思うと、なにやら不思議の感がある。その『黄金桜』の稽古も、今や佳境に入っている。この写真は、津村師の御自宅稽古舞台における稽古風景。左が津村師、右は、ツレ代官役の桑田貴志君。初演の舞台、乞う御期待、というところ。ぜひ皆様揮って見物にお出で下さい。JR武蔵小金井駅みどりの窓口でもチケットを扱っているほか、小金井薪能事務局でも承り中。電話042-387-1712,またはファックス042-385-9237、ただし電話受付は平日(除、土・日・祝)の午前10時から午後五時まで。

2008年8月2日土曜日

蕎麦の名品ここにあり

 なにしろ、私は蕎麦というものが無二無三に大好きで、それも手
打ちの生粉打ちで、いっさい海苔などもかけない、盛りそばに限
る。しかも、蕎麦は、細くてつるつると喉越しの良いのが身上で、
ゴソゴソと太いのなんかは気に入らない。またツユというものが大
切で、有名な老舗なんかでも、実際に行ってみると、ベタベタと
甘ったるいツユに閉口することなど、珍しくない。信州あたりで
も、蕎麦は良いんだけれどツユが不味いという店が、また結構多
い。結局、蕎麦が良くって、ツユが良くって、なおかつ、食べ終っ
てから、煮え立った熱い熱い蕎麦湯を、タイミング良く出してくれ
るなんて店でないと、どうも感心しない。この写真の蕎麦は、(写
真が宜しくないので、蕎麦の美味しさが十分に表現されていないの
は遺憾だ!)府中市の「心蕎人さくら」という店の「せいろそば」
で、石臼自家製粉生粉打ち手打ち正真の名品である。まだ若い主人
がせっせと打っているのだが、よほど修業がよかったのか、才能の
しからしむるところか、近年出色の旨さである。蕎麦が良くってツ
ユが良くって、そして蕎麦湯が良くって、いつも感心しながら、そ
の馥郁たる蕎麦の薫りと喉越しと歯ごたえを楽しんでいる。きょう
もちょいとひとっ走りこれを手繰りに行ってきたところである。

2008年8月1日金曜日

雄松堂界隈

四谷の近くに、雄松堂書店という出版社と古書店を兼ねた会社があ
る。主に洋書を扱う老舗だが、この会社がゲスナー賞という学術的
な賞を主宰している。これは書誌学的な分野の書物を顕彰しようと
いう賞で、隔年に応募作を募り、「書誌」部門と「本の本」部門と
二部門に分けて、厳正な審査を経て受賞作を決める。現在その審査
が進んでいるところだが、その為に雄松堂書店本社で一日本を睨ん
で過ごした。終って会社から出てくると、ふとその社屋の脇の小路
に心惹かれるものを感じた。どうということもない細道なのだが、
こういう風景のなかに、東京の山の手の、ある独特の雰囲気が漂っ
ているのを感じる。それは根津下谷あたりの下町の路地ともちが
い、郊外新開地の立派な道路とも違う。いわば昭和の住宅地の空気
がまだ消え残っているような、そんな味わいを感じるのである。近
年、この小路はごらんのような石畳になって、それがまた、ふいっ
と右のほうへ曲って行くあたりに、「ああ、この先に何があるんだ
ろう」と思わせてくれるところがある。風景としては、そんなとこ
ろも面白いのである。