つい先頃、老父が92歳の誕生日を迎えた。
そこで、私どもと、息子夫婦も交えて、お祝いの一席を設けたの
だが、ちと子細あって六本木ヒルズの51階という空の上で懐石料理を
食べた。六本木ヒルズなどというところへは一向に足も踏み入れな
いのだが、たまさか行ってみると、内部構造の複雑怪奇、方向感覚
がマヒすることこの上なく、まあ、あまり愉快な建物ではない。た
だし、その料理はなかなか丁寧に作ってあって、それなりに美味し
かった。窓から見ると、東京の夕景が一望できて、この写真には
写っていないが、すこし右に東京タワー、さらにもうすこし右には
レインボウ・ブリッジも見える。六本木というところは、こんなに
も海に近いのかと、いささかならず驚かされる。そうして、暮れな
ずむ東京の風景を眺めていると、ああなんと美しい町だろうかとい
う感が深い。私は東京っ子なので、やっぱりこの東京の風景には愛
着がなみなみならずある。ただし、こういう高層ビルに住みたいか
と聞かれたら、言下に答えよう。それはぜひともご免を蒙りたい、
と。これはたまさか行くのは良いとして、決して人の住むところで
はないと思った。