きょうは、小金井薪能の第三十回を記念して、新作能『黄金桜』
の初演があった。この能は、小金井薪能から委嘱されて、まったく
新しい創作として私がテキストを書き下ろし、それを観世流津村禮
次郎師が作能した作品である。私はかねてから、新作能といって
も、能の言葉は中世の日本語に依拠した音楽と不可分のものと考え
ているので、言葉は中世の古典語で書いた。しかし、古い革袋には
新しい酒をと、すぐれて現代的なテーマを作劇したものである。人
間がエゴで自然を破壊したりしてはならないこと、自然というの
は、そこに神の宿る神聖なものであること、そこに主題を求めた。
人類のエゴから、地球は温暖化や過度の開発という危機を迎えてい
る。それはある意味では核の脅威などよりも切実かもしれないと、
私は思う。この曲は、黄金桜という神聖な古木を、武蔵守が国守の
館の庭に移植してわが物にしようということを思い立ったのに対し
て、桜の精が桜守の老人に化して示現し、人間の小賢しい考えのひ
がことなるを諭し、やがて代官智泰と共に、満開の桜の花のもと、
美しい舞を舞って消える、という話である。せっかくの記念薪能
だったが、あいにくの悪天候で、小金井公園の野外特設舞台での演
能は不可能となり、第二会場の中央大学付属高校講堂に会場を移し
て初演した。写真は、その第二会場の舞台で、最後のリハーサルに
臨むシテ津村禮次郎師。おかげさまで大盛況、演能としても良い成
果を得たと思う。さて、次はぜひ正規の能楽堂で再演をしたいもの
である。皆様どうかいっそうの御支援を。